2012年2月3日金曜日

松本に引っ越すべきか否か?

onomatopoeia311さんからのコメントの中に次の質問があったので、考えてみた。その質問とは、「松本に引っ越すべきか否か?」だ。

松本の土壌汚染の度合いは、おおよそ10Bq/kgだという。また、空間線量を測ると0.10-0.20μSv/hが出るという。前者の値はとても低いものだし、後者の値は「放射線量結構あるね」という印象。果たしてどちらの数字を頼るべきか、という問題だ。

まず、最初の値について見てみたい。この数字の根拠となる測定はどのように行われたのか?引用されていたブログに飛んで調べることにする。まずは、松本市が行った市内学校の校庭の土壌検査。昨年の8月後半から9月にかけて検査を行っている。検査機器はゲルマニウムγ線検出器。測定限界が10Bq/kgだというから、おそらく15から20分の測定だと思う。この測定条件で、すべての地点がNDとなっている。これをonomatopoeia311さんは10Bq/kgと正しく解釈したのだと思う。もう一つのデータの出所は、木下黄太というジャーナリストのブログ。数字だけが書いてあって測定法が書いてない。科学者じゃないから、数字の意味はあまり考えないのだろう。これではちょと参考にはならない。(想像するに、松本市の測定と同じレベルの測定内容だとは思うが...)

松本市の測定は、信頼できると思う。スペクトルが手に入らないので汚染の有無は問えないが、放射能の数字から「汚染は軽微かそれ以下」だとは言い切れる。

次に、線量計で測定したら0.1から0.2μSv/hの値が出た件についてだが、RADEX 1706というガイガーで測ったということだ。私も同類のRADEX 1503を持っているが、このガイガーカウンタはちょっと高めに値がでる癖があると感じている。また、バックグランド補正も必要で、0.1が出ているということは実質0.05μSv/h程度で、また0.2μSv/hという測定値は0.14μSv/h程度に相当していると考えている。さらに、ガイガーカウンターというのは、核種を特定できないので、自然放射線も取り込んでしまうし、またβ線の遮蔽をやらないと意外に値が上下してしまう。(0.1-0.2μSv/hということなので、揺らぎが結構大きい気がする。)RADEXをつかって、RAMI解析をしてみれば揺らぎは小さくなり、さらにバックグランド補正をやれば、意外に線量は0.1μSv/h以下に落ち着くのではないかと感じる。現に、市のシンチレータによる測定は0.06-0.08μSv/hだというから、私の予想とぴったり符号する。

松本市は、フォッサマグナの西縁にあるため、そのすぐ西側に広がる古い地塊からやってくる自然放射能物質が結構混じっていてもおかしくない。この辺は、スペクトロメータを使って核種同定をすれば、はっきり分かるだろう。ラジウムとかビスマスとかが多ければ、ガイガーカウンタによる測定が高めに出るもう一つの理由として説明つくだろう。

ここまでの議論に基づけば、理論的には松本に住むのはいいアイデア、ということになる。ただ、フォッサマグナに近く、牛伏寺断層があったり、他の因子もあるから、トータルで考えていく必要もあろう。個人的には、松本はいい場所だと思っている。

松本市長は医師であり、チェルノブイリの人々を助けた経験も積んだ素晴らしい人だし、その人が司る市の活動の信頼性は高いと思う。しかし、科学者は自分の手で全て確認してみたいと思う訳で、それが終わるまでは最終的な結論は出すのは控えておく。近々、松本には測定旅行に行く予定だ。

ちなみに、最近、世田谷近くの土壌測定をベクミルのLB2045で行った。予想していたとはいえ、綺麗な「セシウム3兄弟」のピークが立ったのを見て鳥肌がたった。松本の土を測定しても、こんな綺麗なピークは立たないと思う。ちなみに、この土の採集地点の空間線量はJB4020で0.12μSv/h(補正すると0.07μSv/hに相当する)だから、「汚染は弱い」と普通は判断されるだろう。土壌のセシウム汚染の有無は、ガイガーカウンターでは手が出ないと痛感した。(逆に、ガイガーでひどい値が出る場所は、数万Bq/kg以上のものすごいひどい土壌汚染が起きている場所だと思う。)

今朝の新聞で、横浜の側溝で7μSv/h弱の線量が出たという報道があった。また、securitytokyo.comによると、小田原のミカンがセシウム汚染されているという報告もあった。柏のみならず、船橋、浦安、市川、市原などの土壌も汚染されているというブログの記事がある。更に、私の学生の計測によると上野公園は0.2μSv/hほどの線量がいたるところで測定できるという。噂だが、埼玉県和光の土は綺麗なセシウム三兄弟のスペクトルを出すとか。これらの事実から推測するに、関東平野は全土に渡ってセシウムで汚染されてしまった可能性が非常に高い。関東平野に比べれば、松本平の汚染など無視できるほど低いと思っている。

7 件のコメント:

onomatopoeia311 さんのコメント...

丁寧な考察をありがとうございます。

最終的な判断は、
十分に納得した上で、自身で選び取りたいと思っておりますが、
客観的なご意見をうかがうことができ、感謝しております。

引き続き、立ち寄らせていただきます。

kuzzila さんのコメント...

参考になれば何よりです。

ガイガーカウンターで線量を測っても低い値が出るので、あたかも東京西部はセシウム汚染が無いかのように錯覚してしまいがちですが、γ線スペクトルで見ると明らかな汚染があることが最近ベクミルのお陰でわかってきました。ものすごく残念ですが。

クラフト さんのコメント...

長野県南佐久の川上村に自宅があり、沖縄に緊急避難しています。1月中旬にInspector Alert
をお供に、長野県及び首都圏にに計測旅行しました。文科省庁舎の近くの植え込みの地表から3cmの高さの空間線量が0.6第μSv/hであったことには、予想していたとはいえ、深刻な事態を改めて感じました。佐久平駅、信濃川上駅、川上村役場、各公立学校の敷地において、軒並み0.1μSv/h超の計測値にがっかり。自宅の敷地で土壌サンプルを取り、計測業者にお願いした結果が、セシウム不検出(定量下限値4.20Bq/kg、2.82Bq/kg)、ヨウ素不検出(定量下限値2.82Bq/kg)、そして、K-40が510.30Bq/kgでした。この地は、花崗岩の山である金峰山を中心にして、増富ラジウム温泉と地図上で点対称にあります。この計測に際し、業者(幅広く各地の土壌を計測している模様)から聞いたことによれば、「松本市を含む松本及び安曇野は、意外に汚染されている、それは谷や尾根といった個別の地形によって異なる」ということでした。松本市の計測方法について。土壌の計測方法は、①0~5cmの土壌を攪拌したものをサンプルにする方法(一般用)、②0~15cmの土壌を攪拌したものをサンプルにする方法(水田用)③0~30cmの土壌を攪拌したものをサンプルにする方法(畑用)など、様々のようです。すなわち、目的によって計測方法が異なるようです。言い換えれば、計測の目的に合致しない方法によるサンプルは恣意的な主張に使われうるということだろうと思います。

kuzzila さんのコメント...

情報ありがとうございます。

ガイガーカウンタも、業者による放射線測定も、ちゃんと較正した機械で測らないと、系統誤差がありますので注意が必要です。

ガイガーカウンターの値が0.1μSv/hと出たということの意味ですが、通常はバックグランドによる影響で高く出ますので、僕の経験からすると、実質線量の低い場所だ、ということではないかと思います。

また松本は意外に汚染されているとのことですが、これに関しては自分でスペクトルを見るまではなんともいえませんね。僕は、10Bq/kg以下なら「意外に汚染されてない」と思います。機械に検体を入れてスイッチを入れると、数字が出てくるので、それだけをみると「意外に汚染されている」と思ってしまう可能性もあると思います。(あるいはその逆で、意外に汚染されてないと勘違いすることも。)

業者の人に測定を頼んだ場合は、ぜひスペクトルの写真も見せてもらうよう頼むべきです。セシウムの3つのピークが立っているか確認するためです。

ちなみに、川上の県境は汚染があるかもしれませんが、野辺山の辺りまで下りてくれば、かなり汚染が低くなると思います。とはいえ、まだ土壌調査をやってないのでなんともいえませんが、その地のポッポ牛乳が、SecurityTokyoでNDと出ているので、少しは安心できるのではないかと思います。ただ、何事も予断は禁物であることは確かですが。

kuzzila さんのコメント...

クラフトさんへ、

土壌検査で一応NDが出たというのは朗報ではないかと思います。川上の汚染は軽微だとおもっていましたので、予想通りだとは思いますが。ただ、スペクトルは確認しておいた方がよいと思います。また、測定器械もゲルマニウムなのか、NaIなのか確認しておいた方がよいと思います。

onomatopoeia311 さんのコメント...

Kuzzilaさま、

いろいろと考えた結果、2~3年を目処とした一時的な転居に踏み切る運びとなりました。

転居にあたっては
信大物理の名誉教授 M先生にもご相談いたしました。
M先生によると、
1, 2年くらいでは、東京の状況は変わらないだろうから、転居するなら、長期的でないと。
2, ただ、この一年の慢性的な被爆を帳消しにするには意義がある。
3, 自分の孫が、世田谷西部周辺に住んでいても、内部被爆に考慮した生活、習慣(飲食含む)を送っている限り、松本への積極的な移住は進めない。とのことでした。

そのようにご説明を受けましたが、すっきりと気持ちが整理できたわけではなく…。

結局、自分の出来る範囲でしか、防御はできないわけですが、
家族も後押ししてくれている。今の自分に、"できない"という条件はない。と、気づいた次第です。一大決心ですけれど!

松本は、首長さんを始め、子どもの受け入れ学校も意識が高く、これならお預けできる。と、思えたことも、決心を固めてくれました。

細やかに回答くださいまして、ありがとうございました。
松本に関するその後の分析もお知らせください。
今後も、立ち寄らせていただきます。

kuzzila さんのコメント...

onomatopoeia311さんへ、

大きな決断だったと思います。
僕は、それが「正解」であろうと思います。

最近の記事をご覧くださればわかるように、東京とその近郊の土はどこを測っても、必ずセシウムのピークが3つ出てしまいます。

最近の東大(本郷)の件に関しては、「こんなところで適当に採取したって、どうせ出ないんじゃないか?」とタカをくくっておりましただけに、驚きました。もうすぐ報告しますが、皇居北の丸の周辺にも、数百ベクレル/キロの汚染があって、やはりきれいな「三兄弟」ピークが見えました。

関東の土埃を吸いながら遊ぶ子供達の10年後は、本当に心配です。何事もなければよいのですが。松本に引っ越すことで、リスクはさらに落ちます。ただし、2年では短いと、僕も思います。