2012年1月19日木曜日

ベクミル上野店へいく:佐久平の土壌を測る

ベクミル上野店へいって測定してきた。ここにはLB2045が2台ある。ガンマ線のスペクトルが出るので、核種同定もできる。しかし、放射能レベルの大きさ(値)自体はそのまま受け取っていいのか、ちょっと考えさせられた。というのは、このスペクトルをもとにセシウムの値を「単純測定」しているのか、それとも「生データを解析」しているのかはっきりしなかったからだ。

まずは、昨日の結果を見てみる。
土壌の測定
測定したもの(検体)は土壌。信州の佐久市を流れる千曲川近くの農地で許可をもらって採集したもの。付近の小学校、保育園のグランドの土を佐久市はゲルマニウム測定器で調べており、だいたい40から150Bq/kgという値が昨年の夏に発表されている。(100Bq/kgを越える高い場所は、佐久平の東西の縁にある山地帯に分布する傾向がある。)千曲川は佐久平の一番低い場所を流れているし、付近の農地は砂成分が多いので、汚染は軽微だろうと思いながら測定器にかけた。

20分の測定を行う。精度は10Bq/kgだという。値は40Bq/kgとなった。しかし、スペクトルを見ると「セシウム三兄弟」の3つのピークははっきりしない。これは、放射能が弱く、ノイズに埋もれてしまっているからだ。食品など、微量な汚染を見抜くには、このノイズ埋もれをなんとかして抜き去る必要がある。

まず、よく見えるのが1460keVにあるK-40(カリウム40)の小さなピークだ。農地には、肥料がまかれているから(植物が必要とする三栄養素の窒素、リン酸、カリウム)カリウムは比較的多いといわれる。が、この農地にはカリウムはあまり無いようだ。カリウム40は自然放射能物質の一つで、環境中に結構たくさんある。有名になった1bnn=20Bq(バナナ一本で20Bq程度)というのは、バナナに多く含まれるカリウムの中には、放射性カリウムが入っているという事実を利用したものだ。カリウム40から出るγ線は、測定容器の物質中に含まれる電子と散乱する(コンプトン散乱)。すると、ガンマ線のエネルギーは電子に少し移行して値が下がる。電子の散乱方向や散乱速度によって、ガンマ線が奪い取られるエネルギーの量は変わるため、散乱ガンマ線のエネルギーは連続したなだらかな「丘状」の分布になる。その丘の右端、つまり最大エネルギー部分をコンプトンエッジという。コンプトンエッジから左側のスペクトルには、散乱ガンマ線の寄与が「ノイズ」として入るので、引き去らないといけない。(これは、早野、野尻両先生の講義でも確認できる)。

また、装置を空の状態で測定し、バックグラウンドレベルを確認する必要もある。わざわざベクミルまでいき、4000円払って空測定するのはひどく躊躇われるため、なかなかこれを実施できる人はいないだろう....かく申す私も空測定する余力は今回なかった。(が、帰って来てから深く後悔。ベクミルは毎日一回は空測定を事前にやっておき、みんなに公開したら喜ばれるだろう!追記:ベクミルに確認したら、毎朝バックグランド測定はやっているそうで、そのデータはLB2045に毎日入力しているとのこと。これで空測定はやらなくて済むので安心した。ただ、ピークの位置はずれているような気がする...

また、低エネルギー部分(503keV以下)に見られるピークは、遮蔽容器の材質の鉛から出てくるガンマ線やX線の寄与だという。(野尻先生の説明はこちら。)また、0.6keV以下のだらだらした「丘」はセシウムのガンマ線自体のコンプトン散乱の寄与らしい

また、セシウムの寄与を測定するのに、エネルギーレンジを450keVから850keVとしているようだが、この区間で積分しているのか、それともGaussian tailの補正をしているのか、はっきりしなかった。もし、積分しているなら、ちょっと多く見積もりすぎではないか?と思っている。いづれにせよ、補正無しの状態で見たスペクトルには、明確なセシウム汚染の痕跡はみえず、微量な汚染の検出にはちょっと工夫が必要だと思った次第。(まあ、佐久平の千曲川沿いの汚染は軽微だということで、佐久市民の人たちはいちおうは一安心してもよいのかもしれない。とはいえ、「盛り上がり」が微かにあるのは確かなので、ここの分解能は上げないといけない。)

肝心のセシウムの量だが、目分量で、コンプトン散乱とBackgroundの寄与を引き去ると、おおよそ半分くらいの20Bq/kg程度。さらに、誤差によるGaussian tailの処理をすれば、まあ大雑把にいって10Bq/kgではないだろうか?キチンと解析する方法を編み出して、こういうサンプルで「数ベクレル/キロ」という値が出てくれば、この機械はかなり使えるようになるだろう!(野尻先生や早野先生たちも、この機械で「遊んで」いるようなので、彼らの編み出した方法は参考になるだろう。)[追記:まだ未確認だが、スペクトルの図自体は、バックグランドやコンプトンの寄与がそのまま残して表示している感じがするが、セシウム量の値(私の場合は40Bq/kg)を推定する計算では、そういったものの寄与を引いて求めているような気がする。ただ、積分レンジがちょっと余裕を持ち過ぎで設定されている感じもする。この設定は、ベクミルの判断ではなく、機械のデフォルトの設定だそうだ。40Bq/kgと出た場合の真の値がどうなるかはまだよくはわからないが、それほど間違っていないのかもしれない。この当たりはまだ考察中。]

ちなみに、ここで一緒に測った別のグループに話を聞いてみた。たぶん都内だと思うが、とあるコンビニで買った椎茸とお茶(茶葉なのか、製品なのかは聞かなかった)を測ったという。椎茸は400Bq/kg近く、お茶はもっと出た、という。その時は非常に驚いたが、しかし、スペクトルを確認しない限り、それがコンプトン散乱の「ノイズ」の寄与かどうかは、区別がつかないだろう。スペクトルも見せてもらえばよかった。

今度行くときは、明確にセシウムの3つのピークが出る奴を測る必要あるだろう。というのは、ベクミルの測定器は、10keV程度ピークがずれているような感じがあるからだ。較正をまめにやってないと思うので、自分でやる必要があるのかも...ということは、一日に少なくとも2回は捨て測定をやらないといけない(空測定と較正用測定)。まじめな測定をやるとすると、ちょっと資金が続かないかも。

(追記:名古屋の土壌と比べたら、だいたい同じ感じになった。佐久は名古屋と同程度の軽微な汚染と考えるべきか?それとも、名古屋は佐久なみに汚染されてしまったと考えるべきか?私は、前者かなと思いたいのだが、こればっかりはゲルマでやらないと決着つかないだろう。Good news is ...両者ともLB2045の精度でセシウムのピークが見えない程、汚染は弱いということだろう。)

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