2011年4月30日土曜日

CD-1の威力:M51(子持ち銀河)の場合

今日最後の観測は、りょうけん座のM51(子持ち銀河)。とはいえ、北斗七星から見つけるほうがやりやすい。前回の観測ではこのような写真となった。

今回はISO1600で120秒の露出をして、微かに光る構造まで全部写してやるつもりで臨んだ。その結果は下図の通り。
M51(Whirlpool galaxy):銀河腕の構造も見える
二つの銀河が衝突している様子がよく分かる。バルジの膨らみ、銀河腕の構造など、細かいところまでよく記録できた。ほんとうに嬉しい!

CD-1は簡易赤道儀なので、望遠鏡を積んで動かすことができない。カメラの望遠レンズをアップグレードするしかないのだが、いずれは望遠鏡に赤道儀を導入したいものだ。面白いことに、CD-1を利用する今の装備では惑星の表面を撮ることができない。はるか彼方にある銀河がちょうどよいのだ。

しばらくは、CD-1で銀河や星団星雲の写真を取りまくり、少しずつ夏の星座に備えることとしよう。明日はオリオン周辺を狙ってみよう。

2011年4月29日金曜日

CD-1の威力:M101(花火銀河)の場合

さて、いよいよ北斗七星の銀河の観測に入る。ここまでで数時間を費やしてしまい、夜も更けてしまった。そのため、北斗七星は天頂近くまで登ってしまい、撮影は困難を極めた。(ファインダーを覗くのに半腰状態はつらい。)電池切れで失敗したM81,M82はだめだったが、その他2つの銀河の撮影はうまく行った。まずは「花火」とあだ名がつくM101より。

RAW画像を処理拡大したのが、下の図。
M101(花火銀河)。銀河腕もわかる!
その下にNGC5473が偶然写っていた。これも円盤状に見える。
中央部に見えるのがM101。以前撮ったものは、補助円で囲まないと分からなかったほど微妙だったが、今回は銀河腕の構造までよくわかって感動した。撮影はISO1600で二分。

NGC5473も偶然写っている。(距離不明)



CD-1の威力:M65,M66,NGC3628の場合

次は銀河団の観測。実は北斗七星のM81,M82も試したのだが、電池切れで撮影失敗。赤道儀はバッテリー切れという新たな問題を持ち込んだのであった。とはいえ、獅子座の足下銀河団の撮影はうまく行った。まずはjpgで撮ったもので、広視野のものが下図。
写真左下部:M66,M65,NGC3628.
中央部の縦の三ツ星の横にNGC3593も映っている。
上部中央の明るい星は獅子座θ星。
中央下部分に縦に並ぶ三ツ星があるが、その真ん中の星の右側に、銀河NGC3593が偶然微かに写っていた。三ツ星の左には、二等辺三角形に配置する、3つの銀河M65,M66,NGC3628よりなる銀河団が見える。撮影はISO1600で1分。

次はRAW画像を修正拡大したもの。
M65,M66,NGC3628のRAW画像。
バルジの輝きと銀河円盤の広がりがよくわかる。NGC3628の暗黒物質は残念ながら今回もよくみえない(微かに分かる程度)。撮影は、ISO800で二分露出。

ちなみに以前の観測結果はこれ。赤道儀の素晴らしさを実感する。

次はいよいよ北斗七星に向かう

CD-1の威力:M104(ソンブレロ銀河)の場合

次はM104(通称ソンブレロ銀河)を観測してみた。以前の観測写真は20秒露出なので、流れに流れて、いつものお化け写真となっていた。今回は、ISO1600で2分(!)露出してみた。
M104(ソンブレロ銀河)
銀河の形がわかるぞー!やったー!

中央のバルジの膨らみ、そして銀河円盤がよくわかる。ただ、銀河中心面の暗黒物質の筋はハッキリせず、なんとなく分かる程度。もう少し、感度と露出時間の組み合わせを研究する必要がある。一応拡大して、暗黒物質の帯を強調したのが下の図。


ここまでの写真はすべてJPGに落とした画像だったので、RAWにしたらどうなるか試してみることにした。次は獅子座の「足下銀河団」

CD-1の威力:M44(プレセペ星団)の場合

西の空が曇っていたので、オリオンの撮影はできなかったが、南天、東天、そして北天を中心に色々な天体の撮影をCD-1簡易赤道儀を使って行ってみた。まずは蟹座のM44(プレセペ星団)から。ちなみに、CD−1無しで撮った以前の写真観測はこちら。(広視野の観測写真はこちら。)

今回の結果はこの通り。
M44(プレセペ星団)
撮影データはISO800で2分。以前の写真と比べると、拡大しても星が「点」で映っている!また、露出時間が長いので、より多くの写真が映っていて、よりBeehive(蜂の巣)の感じがでている。素晴らしきCD-1!!

次に行ってみよう

簡易赤道儀アイベルCD-1を導入する

ポータブル赤道儀を購入してみた。Eye-Bellという会社の開発したCD-1というもの。値段が手頃なのがいい。(本格的な赤道儀は何十万としてしまう....)

オプションの極軸望遠鏡を買ったのだが、この極軸合わせにまず苦労した。どんなにやっても、右と左で×点の位置が収束しない。右を合わせれば、左でズレが拡大し、左を合わせれば、右でのズレが拡大し...とどんなにやっても発散してしまう。結局初日は調整をあきらめた。(商品が届いたのが夜だったので、目印の鉄塔が見附にくかったのもある。)

翌日、再度挑戦したがまったく同じ結果に。そこで、すこし幾何学的に考えてみる事にした。赤道儀の中心点Oの右と左にファインダーを設置することを考える。(正確にいうと、t2つのファインダーは、Oを中心とした180度回転で関係づけられているとする。)このとき、それぞれのファインダーの視野の中心点をAおよびBとする。

視野の中心の位置(×点)に、十分遠方にある物体(鉄塔など)Pを合わせたいとする。AとBの両方に対し、同じようにPの位置合わせができれば極軸合わせ成功となる。というのは、3つの直線PA, PB, POは全て平行となるからだ。ファインダーが平行になれば、赤道儀の軸線も平行になるので、北極星に対して垂直に赤道儀は回転し、回転速度にぶれがなく長時間撮影できる。逆に、Pの見える位置がAとBで異なるということは、右あるいは左にあるファインダー軸が直線POに対して傾いているということになる。このとき、右で合わせたものは、左に移すと大きく外れる。つまり、私の発散の問題は、右で合わせたときのファインダー軸が、POに対して傾いていたため生じていたのだ。ということは、ファインダーを覗くだけじゃだめで、POをPAに平行に合わせるための仕組みが赤道儀自体にあるはず。なにか望遠鏡のような、覗き穴のような、そんなものだろう、と気づく。

ここまで考えて来て、説明書に書いてあるものの、意味がどうしても分からなかった「極軸筒(極軸望遠鏡ではありません)」の意味がようやくわかった。添付されてきた説明書には、「極軸筒」の図説も解説もまったく書いてない。適当に、「望遠鏡の外回りの筒のことか?」ぐらいに考えていた。この誤解が「発散」の原因であった。

赤道儀をよくみると、銀色のパイプのようなものが左上についている。これは単なる飾りではなく、機能をもったパーツ、つまり、これこそが「極軸筒」だったのだ。この筒を覗いたとき、目標物Pが見えるように赤道儀の位置をずらし置く必要がある。これでPOのセットが完了する。極軸望遠鏡を購入しない人は、この筒穴だけを使って北極星に赤道儀の軸を合わせるのだ!この細い筒を覗きながら、目標物に合わせようと機器全体を動かすのは結構大変。ましてや、夜暗い中、北極星をこの穴に合わせるのはそうとうつらい作業だろうと思われる。極軸望遠鏡を買っておいてほんとうによかった、と胸をなで下ろした。

さて、上の調整を経て再度×点合わせをしてみると、今度は収束し始めた。以上の考察の結果悟ったのは、「×点にきっちり合わなくても、右と左で同じような風景さえ見えればよいはず」ということ。というのは、極軸筒の位置の精度は、筒穴の大きさ程度しかないからだ。

苦労したが、ようやく極軸望遠鏡の軸合わせが終了した。次は北極星に×点を合わせ、撮影するだけだ!!!これでようやく、お化けのようなぼーっとして写真からオサラバできる(かも)。

追記:「おさらば」出来た

2011年4月27日水曜日

蟹座周辺の星座の観測

プレセペ星団は拡大しすぎると面白くない、というので、低倍率で蟹座を中心に撮影してみた。撮影時間は15秒で、感度はiso1600。
蟹座を中心に、獅子座、大蛇座、子犬座、双子座。
確かに、M44プレセペ星団は、よりボヤーっとして「星雲」らしくみえる。双子座が綺麗に写った。おおへび座もちゃんと口を大きく開いて噛み付こうとしているし、蟹座の四角やハサミもわかる。また、獅子座のγ星(二重星)もハッキリわかる。

下の図は、補助線を入れたもの。

獅子座のγ星は二重星だが、乙女座のポリマと違って、遠日点に近いところにいるとのこと。したがって、上の写真でもちゃんと分解できている。その角度は天文ガイド4月号(7ページ)によると、4".6だそう。オリオンの小さい方の三ツ星がだいたい5度くらいだから、自分が持ってる望遠レンズだとちょうど視野一杯に収まる。両者の広がり具合は次のような感じ。

オリオンの三ツ星(M42)
獅子座のγ星(二重星)
予想通り、両者の広がりはだいたい同じ。

二重星への分解:乙女座γ星(ポリマ)の場合

先日の観測では、二重星ポリマの分解はできなかった。考えられる原因は、シャッタースピードを4秒にしてしまったこと、それから、望遠鏡自体の分解能が十分でないということの2点。

まずは分解能について調べてみる事にした。天文ガイド5月号(7ページ)によると、連星間の角度は1".68だという。これをラジアンに直すと、だいたい8×10-6。自分の持っている望遠鏡A80Mfが果たしてこの角度を上回る分解能をもっているか、を計算してみた。

光学望遠鏡の分解能を決める因子は、主に光の波動性に起因する回折現象らしい。回折現象により、星の像の拡大には限界がある。拡大すればどんなに接近する2つの点も分解できるような気がするが、光の波動性のため光線は必ずしも直進しない。ただ、回折現象が目立ってくるのは、2点間の距離が光の波長程度まで接近したときに限られる。(それ以上の距離であれば、光線は直線すると思って問題ない。)可視光の場合、300−700ナノメートル程度の波長をもつから、対物レンスによる「星の像」が数百ナノメートル程度になってくると「ぼやけ」が生じてしまう。つまり、点に見えるべきものが「円」に見えてしまう。実際望遠鏡で恒星を観測すると、はるか彼方にある恒星は天光源であるはずなのに円状に見える。星と星の距離が、この円の中に入ってしまうと、連星も一つの星に見える、というわけだ。

岩波の「科学の事典」によると、光学望遠鏡の分解能は1.22λ/Dで与えられる。λは波長、Dはレンズの口径(直径)。A80Mfの場合、D=80mmなので、分解能は0.01525λとなる。紫色付近の波長に対応する300nmの値から推測すると、A80Mfの分解能は5×10-6以上となる。これは、現在のポリマの角度と同じオーダーで、有効数字を考慮すると、ギリギリ分解できるかできないか、という値だ。

一方、シャッタースピードを4秒にしてしまったのは、あきらかに失敗だ。地球は24時間で360度回転するから、4秒間で回る角度は60"=1'.明らかにこれは、ポリマーの角度1".68を大きく上回る。ということで、少なくとも4/60=1/15秒程度にしないと、2つの星を分解できないはずだ。今回試したのは(なぜか)1/10秒。白状すると、上の議論を考える前に撮影してしまったからだ(あきらかに失敗...)。まあ、0.1と0.07の違いは「微小」ということとして、画像解析に進んでみよう。その結果が下図。

乙女座のγ星ポリマの分解
なんとか分解できた!こんど観測するときは、1/20秒のシャッタースピードで撮影してみよう。

(追記:1/20秒でやってみたが、露光不足で微細な構造を記録しきれなかった。ということで、1/10秒程度でよかったようだ。)

2011年4月26日火曜日

獅子座の3つの星雲の観測(M65,M66,NGC3628)

獅子座の後ろ足の付け根のところに3つの銀河がある。M65,M66,NGC3628だ。この3つの銀河はほぼ同じ距離に位置し(2700万光年)、銀河団を成しているそう。

いつものごとく、望遠レンズ、シャッタースピード20秒で撮影する。当然、像が流れてしまうが、まずは最初の一歩ということで、場所の確定のみを目標とす。

見つけ方は簡単で、獅子座のデネボラ(ベータ星)から一つ右にあるθ星を見つけ、そこより下方にあるι星に向けて線を引く。この線の中点付近にカメラを向けると見つかる。まだ、眼視の観測はしてないが、非常に分かりやすい位置にあるので次回挑戦したい。

M66,M65,NGC3628
この3つの銀河は、二等辺三角形の形に位置する。頂点にあるのがNGC3628、底辺の左頂点をなすのがM66、そして右がM65. NGC3628は、他の2つに比べ暗くみえる。これはM104(ソンブレロ銀河)と同じように、横向きになっている上に、暗黒物質の黒い帯がかかっているためらしい。M65,M66は斜め上から見る角度となっていて、アンドロメダ銀河と同様、明るく見える。

(追記:簡易赤道儀で改善した観測写真はこちら。)

それにしても、春の夜空には銀河がこんなにたくさん銀河が浮かんでいたのか、と改めて感嘆す。北斗七星だけで4つ、獅子座で3つ、加えてソンブレロ銀河と今回だけで8つも観測してしまった。さらに銀河形成の初期段階と思われる星団も一つ観測できた(蟹座のプレセペ星団、M44)。銀河とは関係ないが、夕方から観測すれば、オリオン大星雲M42だって観測可能だ。(M43とか薔薇星雲とかまだまだたくさんあるようだが、私の機材と腕ではまだちょっと難しい。)

そろそろ講義が始まる。午後遅くの講義だとしても、夏は天体観測が難しい。そこで、太陽の観測をやろうと思いついた。黒点とかプロミネンスとか見えたら嬉しい。しかも、来年は5月21日に金環食が東京で起きるから、その観測準備/練習も兼ねる。

2011年4月25日月曜日

ソンブレロ銀河(M104)の観測

次に、乙女座にあるソンブレロ銀河(M104)の観測を行った。A80Mfによる肉眼観測でもすぐに見分ける事ができた。しかし、残念ながら、肉眼では銀河面の暗黒星雲の帯を観測するところまではいくことができなかった。また、シャッタースピードを早くして、なるべく星が「流れて」しまうのを食い止めたかったが、そうすると光不足ではっきり写らない。しかたないので、20秒露出で流し取りした。像は流れるが、M104の存在は確認できた。なんとなく、暗黒物質の帯らしいものが見える気がしないでもない。

距離4600万年光年。Whirlpool galaxy(M51)の約倍の遠さにあるにも関わらず、随分明るく見える。近づけば、相当巨大で光り輝くまぶしい銀河なのであろう。

図1:ソンブレロ銀河(M104)。真ん中のぼおっとした天体。
右端の明るい星が目印の三重星。

見つけ方は次の通り。まず烏座の菱形を探す。その左頂点に位置する二重星(δ星とη星)からスピカのγ星(実は二重星)に向かって直線を描く。その直線沿いに「三ツ星」(下図の円内)がある。
図2:乙女座と烏座の外観図

三ツ星の左上の星は「三重星」になっているのが望遠鏡を覗くと確認できる(図1の右端の明るい星)。この三重星は、ファインダーでは二重星に見えた。この三重星の先にM104はある。

それにしても毎回毎回、ぼおっと流れた像ばかりで、ちっとも感動的じゃない。そろそろ、見つけるだけでは飽き足らなくなって来た。そろそろ赤道儀を導入しないと進歩ないかも。(追記:簡易赤道儀で改善した観測写真はこちら。)しかし、ここで焦ってはいけない。まずは、しっかり天体の位置をマスターするべし。

さて、天文ガイド5月号によると、乙女座のγ星にはポリマという名がついているそうだ。ポリマは二重星で、その楕円軌道の周期は171年で、現在最接近の位置にあるという。遠日点に到達するのが2088年(77年後!)。毎年観測して、その軌道を記録するのはおもしろそう。そこでさっそく撮影してみることにした。

図3:乙女座のγ星ポリマ(二重星のはず)
シャッタースピードは4秒。残念ながら分解できなかった。なんとなく真ん中が窪んでいるように見えない訳でもない。ただ、周りの星をみると流れているので、もっと露出時間を短くしてもよいかも。また、明日挑戦だ



M44(プレセペ星団)の観測

今晩は一時間程かけて色々な天体を観測した。まずは蟹座のプレセペ星団(M44)から。ハーシェルはこの星団をBeehiveと呼んだそうな。

目視の最初の目印は、双子座のポルックス(カストルでもOK)。次に獅子座のレグルス。この2つの恒星の中間(よりも若干双子座寄り)のところにぼわーっとした天体がある。これがプレセペ星団(M44)。4角形の蟹座のど真ん中にある。

散開星団のなかでも、バラけている方なので、倍率はあまり上げない方がよい。今日は望遠レンズで撮影したが、普通のレンズの方が良かったかも。シャッター速度5秒、iso1600, f/5.6.

蟹座のプレセペ星団(M44)
距離は577光年というから、銀河系の中の星団だろう。(銀河系の半径は5万光年)。構成星の数は100から200個程だというが、この写真にはそんなには写ってない。

星団というのは、銀河形成の以前にできた星の集団で、その集団が更に集まって銀河が形成されたという理論があるらしい。ということで、銀河系内に在る星団に属する恒星は古いものがほとんどだという。実際、プレセペ星団の星も赤色巨星になってしまっている星の比率が高いそうだ。(次はスペクトル分析してみようかな。)

2011年4月23日土曜日

川中島の博物館へ行く

断層のことを調べるため、川中島の博物館へいった。

真田のあたりは本降りの雨だったが、松代に抜けると雨は降っていなかった。曇り空の下ではあったが、善光寺平は桜が満開で、きれいだった。
川中島古戦場の桜
この辺りはフォッサマグナに属す地域なので、大きな地震を経験している。その記憶は随分薄れているが、1847年(弘化四年、江戸後期)の善光寺地震では一万人程の犠牲者が出たということだ。このときは、ちょうど御開帳の年であり、多くの参拝客も被災したので被害が大きくなったと説明があった。このころ、信州と江戸では大きな地震(余震だろう、きっと)が繰り返し起きたこともあって、信州鯰と江戸鯰という話ができたそうな。

(この絵、中学の歴史の教科書に載ってたのを微かに覚えている。)

宇宙飛行士の被曝量

早野先生のTwitterに宇宙飛行士からの寄稿があった。

宇宙ステーションに滞在するだけでも結構被曝するようで驚いた。が、よく考えれば当然だ。大気圏外、それが宇宙つまり「地球の外」の定義だから。大気(と磁場)のおかげで我々地球人はここまで進化する事ができた。(さもなければ、放射線に有機分子のみならず水分子までも砕かれてしまうから。)

宇宙飛行士が浴びるのは主に太陽から来る放射線だと思うが、宇宙の彼方から飛んでくる究極の放射線の「宇宙線」も結構あるはず。それにしても、宇宙滞在と原発内作業は、実は似たような環境だったんだと感心す。

2011年4月22日金曜日

信濃毎日新聞の写真:福島の悲しみ

そういえば、もう一枚衝撃を受けた写真があった。4/16の信濃毎日新聞のトップ記事の写真。(この方がスキャンしてくれたようです。)

「原子力、明るい未来のエネルギー」の看板の下、
桜に看取られて死んだ犬。
原発から20キロ圏内にある、双葉町にあるゲートだという。その「明るい未来」とは、今この瞬間もこのゲートの下で横たわっている犬の亡骸に他ならない。

飼い主に捨てられ、腹を空かせ、ひとり孤独に彷徨っていたに違いあるまい。桜に看取られ、息を引き取ったのであろう。天国へと旅立ったことを祈らずにはいられない。

思わずパトラッシュの最期を思い出してしまった。しかし、パトラッシュは横にネロが付いていてくれた。この犬は一人で寂しかったことだろう。涙せずには居られない。

Newsweekの写真;福島の苦しみ

ドイツから注文して購入した電気製品の代金を送金するため、渋谷のCitibankへ行った。


実はその前に、邦銀をあちこち試してみたのだが、「できない」とか、"IBANがないとだめだ"とか、「印鑑もってきたか?」とか、とにかくケチが多くて辟易してしまった。こういうときはCitibankが役に立つ。

待ち時間に、ソファにおいてあったNewsweekに目が留まり、ペラペラとページをめくってみた。衝撃的な写真があった。福島原発の近くに放棄された犠牲者の遺体だった。家に戻ってネット検索すると....あった。

福島原発の近くで放棄された遺体(カメラマンD.Weber氏のホームページより転載)。
放射能が高すぎるため、捜索活動範囲から外されてしまったのであろう.

日本の報道機関が伝えきることのできないこと、つまり、東京電力と政府(自民党がその責任のほとんどを負うはず)の責任について、深くそして強く、この写真は訴えてくる。福島の人々の苦しみを、これほど明確に語ってくれる人物はいない。

追記:この写真を撮った本人のホームページがあった。どうも日本版のニューズウィークでは上の写真は公開されなかったような....図書館にいって確認せねば。

2011年4月21日木曜日

シロバナタンポポ

シロバナタンポポを見つけた。それも二カ所で。東京で見たのは初めて。

信じられないニュース

東京新聞の記事に信じられないニュースが二本あった。

まずは4月20日のトップ記事:政府は一時期、原発の作業員の被曝量を「∞」に設定する事を検討していた、との報道。首相らによって却下されたそうだが、こういう「人の命」を粗末にする考え方は許せない。旧日本軍の上官達と全く同じ思考なのは、偶然なのか、それとも亡霊がまだうろついているのか?

次も同じく4月20日の記事だが、こちらは市民へのアンケートの集計結果の報道:「あなたは原発推進に賛成しますか、それとも反対しますか?」というアンケートをマスコミ各社が最近行ったという。その結果に驚いた。

読売、朝日、フジテレビなどの結果は、増設や現状維持に賛成が60%、反対が40%。NHKとテレビ朝日は(凡そだが)賛成50%、反対40%。共同通信者はほぼ五分五分で拮抗した結果。最後に毎日新聞。この新聞社のみ反対が上回った結果となり、賛成40%、反対50%(ただし、凡その数字)。

いづれにせよ、日本の世論は圧倒的なNoを原発政策には示してない、という結果だ。そういえば、福島県民のなかでも福島原発再開を希望している人が少なからずいる、という報道をどこかで見た。そのつまるところは「経済」だった。美しく安らぎに満ちた村や町(ダッシュ村を含む)を放棄し、そこに住む農業、漁業、林業、鉱業に優れた人々が滅ぼされるのと引き換えに、安っぽくプラスチッキーで、やたらに街灯の眩しい東京型の街の複製とその生活スタイルを、日本人はなんでそんなに欲しがるのか?ヨーロッパから戻ってくると、こういう感情を誰もが強く持つと思う。「伝統に基づく文化の香り」が、欧州にも、かつての日本にもあるからだ。

イタリアは原発開発を無期限凍結したし、ドイツは原発推進を掲げる与党が選挙で大敗した。インドでは反原発のデモ参加者の一人が警官に射殺された。日本ではこういった反対論調は盛り上がらないということなんだろうか?計画停電をちらつかされて、東電や政府のいいなりになってしまうんだろうか?記事に指摘されていたように「怖さのあまり、日本は変わってしまったという現実を受け入れられない」のだろうか?

一方で素晴らしいニュースも一つ。朝日新聞の記事。脱原発は必ずやらねばならない。たとえ、東電に代わって、慎重で賢い団体が原発を管理運営する事になっても、彼らは20年から30年後には原発をあきらめねばならないだろう。核廃棄物の処理の問題が解決できないからだ。(地中深くに埋めるのは解決にならないことが、最近のアメリカのケースで明らかになった。その主な理由は「経済性」だが、未来永劫続く放射線の問題も指摘された。)

ちなみに、ソフトバンクの社長が個人で100億円寄付できるなら、東電の社長と会長の個人寄付で200億円以上は義援金が増えるはず。副社長や歴代のOB経営陣も入れたら、一兆円は軽くいくのでは?それに加えて、会社としての東電の補償を足せば、まあ3兆くらいはすぐにでもひねり出せるのでは?

2011年4月20日水曜日

iRobotの510 Packbot

iRobotのRoombaを買って重宝している。完璧とはいわないが、それなりに綺麗になる。犬の毛が絡まってしまって、ふた月に一度は作動不能になるが、パーツごとに分解できるので手入れしやすく、すぐに復活する。ちなみに、犬はもうRoombaに慣れた。

早野教授のtwitterを見ていて知ったのだが、福島原発の中に入ったのはiRobotの軍事用ロボットだったそうな(510 Packbot)。ちょっと驚いた。

でもiRobotができるなら、日本のロボだってできるはず。(秋葉原にはRoombaのパクリだってある。)東電がアメリカのロボを受け入れて、日本のロボを受け入れなかった事に、なにかうさん臭さを感じるのは私だけだろうか。

追記:

実は上の疑問に答える記事が東京新聞にあった。日本のロボメーカーで準備できているのは福岡のテムザック社が開発した「T-53援竜」。さらには東北大学のレスキューロボも現場投入に備えているそう。つまり、予想通り、日本にも「いいのはある」ということだ。

実際、日本ロボット学会は、政府のプロジェクトチームに加わり、こういう日本のロボを原発に向かわせようとしていたらしい。しかし、東電と政府が最終的に採用したのが、軍事用ロボ(iRobotのPackbot)だった。理由は「この非常時に、新型ロボのテストをやってる余裕はない。実績のあるものを採用したい」ということだったようだ。

「実績ないから....」ってどういうことだろう。これは未曾有の事故だ、と東電ならびに政府は主張しているのではなかったか?つまり、こんな原発事故での「実績」もってるロボットなんて世界のどこ探したってありっこない!逆に、アメリカのロボを採用してしまったことで、自前で起こした「貴重な」事故の最初のデータをアメリカに無料で上げちゃった、ということになってしまったのではないだろうか?実際、日本のロボット業界はアメリカの企業に出し抜かれたことで、かなり焦っているそうだ。(そりゃそうだろう。)これからの日本の根幹産業を潰すようなことにならなければよいが。(とにかく、政府も東電も先の見通しが甘いし、それは科学や技術に対する理解の浅さに原因があるように思える。)

さらに、東京新聞は追及する:実は1999年の東海村臨界事故を受けて、国から30億円もの大金が補助金として東芝、日立、三菱といった企業に渡ったそうだ。しかし、これらの大企業はすべて原子炉の製造販売者だ。原子炉が壊れる事を想定して準備をすることに、製造者としてのプライドかなにかを傷つけられた感じがしたのだろうか。新聞には書いてないが、きっと「原発事故なんか絶対に起きない。こんなロボット無意味だろ」と思っていたに違いない。そんな人間たちに、良いロボを目指し、ギリギリを追究する研究なんかできっこない。役人たちも、その内に原発事故対策に飽きてしまって(事故自体を忘れてしまったのかも)補助金は結局消滅したそうだ。大企業連もロボットの開発に失敗し、プロジェクトを放棄する。

役人と政治家が科学/工学の知識に乏しいことが、この度の失政や誤った判断につながっている。「大企業に金を撒いときゃ、まあ安全」という考え方は、自らの無知を認めたやり方ではないだろうか?本当に原発事故でロボットを活用したいと思うなら、そういう研究に真摯に取り組むグループを調べ上げて、そこに補助金を出すべきだ。しかも長期ビジョンに立って、短期の成果をあまりせっつくことなく。また原発関連会社は外しておく必要があろう。

日本には優れた技術者がいて、すぐれたロボットもたくさんある。政府がちゃんと育成してやれば、Packbotなんかよりずっといいのが作れるはずだ。(とはいえ、iRobotはとてもいい会社で、その製品にも非常に満足しているので、そちらを応援したい気持ちもあって複雑な心境なり。)とにかく早く日本のロボットに現場に入ってもらいたい。放射線でやられたっていいじゃないか!科学も技術も、失敗から経験を積んで成長するものだ:これは、かつての月ロケット競争からの教訓だ。

再臨界について:塩素38の測定は誤りだったらしく...

早野教授のTwitterによると、東電は記者会見で「塩素38の検出は間違いだった」と答えたそう。それが本当なら再臨界の議論は、とりあえずこれにて終了ということになる。とりあえずは、東電自身の間違いを認める発表を評価したい。

とはいえ、再臨界の議論を完全に終わらせたいなら、東電は、原子炉近傍における中性子線の測定結果を定期的に出すべきだと思う。(この測定は絶対やってるはずで、それを公開しないのはちょっとおかしいと思う。)

それにしても、この会社の発表には間違いが多いことに辟易する。また、値が跳ね上がったと思ったら「計測器の故障」になってしまうし、分析ミスだったといって、それまでのデータがすべて書き直しになったこともあった。

学部を卒業して東電に入社した友人は、機械工学科のトップでとにかく優秀だった。が、やはり学部で就職すると、博士号を持ち、ポスドクで揉まれた研究者とは比べ物にならないほど、見劣りしてしまうのだろうか?こういう分析ミスは科学者/工学者として許されないぞ!

ちなみに、東電の就職情報を見ると、やっぱり博士号取得者は採用する気がないそうだ。(修士は「あり」だそう。)自分の経験からして「修士、学士」のレベルと「博士、ポスドク」のレベルでは、その能力や経験値に雲泥の差があると思う。

また電力会社にもかかわらず、科学の基礎知識があまりにも無い事務系社員が出世して社長や会長になるような体制はよくないと思う。

2011年4月19日火曜日

春の半月(上弦)

東京の桜は既に散りにける。冷たい雨の春の夜の、吐息も白く凍えたる。甘酒沸かし、ごくり飲み、雲間にのぞく星の影。

先日の暖かな春の夜はどこにいってしまったのか? 春の上弦の半月を気持ちよく撮影したのが嘘のよう。コペルニクス、ティコ、アルキメデス、エラトステネス、プトレマイオス、そしてプラトンなどのクレーターがよく写っていて嬉しかった。




P: Plato, A: Archimedes, E: Eratosthenes,
C: Copernicus, P': Ptolemaeus, T: Tycho

2011年4月18日月曜日

春の里山へ登る

高遠の桜はついに見頃となった。松本城も、善光寺の城山公園も、上田城も、信州のほとんどの地域で花見の季節となったそうだ。

山桜はまだ先のことだが、暖かくなったので里山の一つに登ってみる事にした。といっても、標高1500メートル弱だから、ハイキングというよりも、むしろ「山登り」。

まず、麓でオオタカを見た。その林はダンコウバイで飾られていた。実は、信州の山の春の色は黄色より始まる。

ダンコウバイ


尾根道を登っていくと、スミレが落ち葉の中から顔を出していた。レンゲツツジや山ツツジもあったが、これらは初夏までのお楽しみ。
アオイスミレ (Viola hondoensis)?
(山林に多く見られる。背が低く、うつむき加減に花をつける。
参考書:Field-pal 野外探検大図鑑、小学館1993)
頂上に登ると、眼下に景色が広がった。遠くに山々の峰がそびえる。春の空は変わりやすいとはこのことか。風向きが北に変わり、急に雲が立ちこめて来た。放射能の雲でないことを祈りつつ下山す。その夜、ダッシュ村が閉じたことを知った。改めて、東京電力(と自民党の原発政策)への怒りを感じた。




2011年4月17日日曜日

M101の観測

北斗七星周辺にある銀河のうち、前回観測できなかったM101の観測に挑戦した。

まず、練習を兼ねて、M81,M82の銀河団を観測する。目印の2つの三角形を使って、2つ星まで行き、その「下」の星の僅かに「下」を狙う。今回は望遠鏡の直接眼視観測でも発見できた。望遠レンズでも撮影を試み、なかなか巧くいった。しかし、地球の運動のせいで像が流れてしまうの問題は回避できず。

次に、2100万光年遠方のM51(Whirlpool Galaxy、子持ち銀河)の観察。こちらは杓の最後のη星を含む鈍角三角形の頂点から、底辺に垂直に線を延ばしていく。その先には「一つ星」、「二つ星」と順に現れるので、一つ星と、三角形の頂点星との距離の半分辺りに狙いを定め、焦点を絞る。目視確認は出来なかったが、写真撮影でちゃんとM51をとらえることができた。

M81,82,51と随分習熟してきたので、いよいよM101にレンズを向ける。1900万光年彼方の天体だ。実はこの銀河を探すにあたっては、目印がたくさんあるので、とても探しやすいはずなのだが、銀河の向きが正面、つまりまん丸になっているので、星の重なりが少なくなって暗く見える傾向がある(と個人的には思っている)。まず、死兆星で有名となったアルコルとミザールの二重星から伸びる、縦の4つの星のラインをなぞる。そのまま突き抜けてしまうと、牛飼い座の鈍角三角形に行ってしまうので、その方向より45度傾けて進む。すると微かな三ツ星が現れるから、そのちょっと先あたりがターゲット地点だ。

このやり方で目視観察を試みたが、うまくいかなかった。そこで、カメラによる撮影に切り替えた。望遠鏡ではなく望遠レンズでの観測でまずはやってみることにした(視野が広く使えるので)。現像してみると、3枚ほどになんとかM101が写っているのが確認できた!しかし、やっぱりその光はとても微かなもので、そこに銀河あると知らなければ、撮影エラーか何かと区別がつかなかったかもしれない。

M101

撮影条件はシャッタースピード20秒、iso1600、f/5.6。23時頃。

上の写真ではわかりにくいので、丸で囲んでみたのが下の写真。

まさに微妙な「星の雲」だ。銀河腕の構造はわからない。大きめの丸い光のぼやったとした塊に見える。横から見る銀河とは、かなり違う形になっているのは確かだ。(実は、M51も真上からとっているのだが、衝突銀河のため、その形が「ひょうたん」のように写る。そのため、見つけやすくなるのだろう。)

(追記:簡易赤道儀で改善した観測写真がこちら。)

ちなみに、M81,82はこの機材でとっても、かなりハッキリわかる。同じ条件でとったものを下に掲げておく。

M81,M82

2011年4月16日土曜日

ベクレルからシーベルトへの変換:実効線量係数を題材にした小説

これまでに見て来たように、実効線量係数はICRPが定義した概念で、その定義はかなり荒っぽい。シーベルトをS、ベクレルをBと書くとする。人体モデルを二つの量の関数jと見なすと、S = j(B)と書ける。これをテイラー展開の一次までで近似して、S〜c0 + c1Bと表したとき、c1が実効線量係数に相当する。ただし、B=0のとき、S=0だから、c0=0となる。よって、
S〜c1B
という関係式が得られる。この式が意味するのは、この実効線量係数c1が人体の呼吸循環システムの全ての情報を秘めているという建前である。

この式を使用するにあたっては注意点がいくつかある。

  1. 出てくるS(シーベルト)は50年間(成人の場合)の積算量であるということ。
  2. 吸い込む放射能物質の量B(ベクレル)は、50年間コンスタントに吸い込むという仮定が入ること。
  3. これは数値モデルを仮定して計算して得られた仮想的な結果(シミュレーション)だということ。(現実の生物、つまり人体を使った実験/臨床データはまったく使用されてない。)しかも、このモデルの仮定は「呼吸による摂取」であり、異なる摂取の場合は、さらに異なる複雑なモデルを作り上げなくてはならない、ということ。
ここで、上記3番に関して、ひとつ考察をしてみよう。いうまでもなく、吸入摂取と経口摂取は随分異なる摂取方法だ。素人目にみても、例えば吸入モデルなら「口から吸入、気管、肺、動脈、さまざまな内蔵、静脈、肺、気管、口から排気」となるだろうし、経口摂取なら「口から食べる、食道、胃、小腸、大腸、消化管の毛細血管、静脈、心臓、動脈、様々な内蔵、腎臓、肝臓、尿管、肛門、排泄」などなるだろう。つまり、そのコンピュターモデルは大幅に異なるはずで、経口摂取と吸入摂取の実効線量係数の間には簡単な関係は成り立たないだろう。たとえば、両者が比例関係にあるなんて、数値シミュレーションの観点からすると、奇跡中の奇跡のような気がする。

文科省の委託事業が出している数字を見てみよう。吸入摂取に関する実効線量係数は0.0074マイクロシーベルト/ベクレルで、ICRPの値と同じ。つぎに、ICRPからは発表されてない(注:カナダ政府の文書を見る限りだが)経口摂取時の係数値は0.022マイクロシーベルト/ベクレルとなっている。この2つの数字、一見関係ないかと思っていたが、実は
0.0074 × 3 = 0.0222 
つまり、吸入摂取の値を綺麗に3倍すると、経口摂取の値となる(!)。更に、文科省とNPO団体の値はというと、吸入摂取と経口摂取の値は、綺麗な1:2の関係がある!こういう「奇跡」が起きた時、科学者が考えることは一つ:「なんか嘘くさい」である。

以下の記述は完全に私の想像であって事実とは限らない。しかし、幾分かの真実は秘めているはずである。

まず、ICRPの吸入摂取に対する実効線量計数は、結構大変な数値モデルを走らせて、ある程度科学的にに得られた結果というのは正しいだろう。もちろん、適用限界やら、誤差やらは多分に含むし、その定義もちょっと無理があるように思えるが、あくまで「近似」の範囲を理解して使っている限り「科学的」だ。


さて、この値を元に日本の基準値を決めようとした(官僚)組織があったとしよう。計算のあるところはそのまま利用できる。しかし、自分たちでは計算できないので、計算してないところをどう埋めたら良いか困ってしまう。そこで、口から飲み込むほうが、肺に吸い込むよりも、事態は重大だろうと予想をたてる。とはいえ、10倍、100倍まで差は開かないだろう、と「常識的な」勘を働かせる。そこで、2倍とか3倍とか、ちょっとだけ増やしてみる。1の次は2、2の次は3、という小学校の算数の考え方に近い。


しばらくたって、別の(官僚)組織が縦割り行政のため、似たような基準を(ダブって)つくることになった。この担当者は、化学のことは多少知っていたが、原子炉のことをよく知らなかったため、実際にはヨウ素の単体蒸気だけを考察すればよいものを、ヨウ素の化合物別に数字を作ることを思いついた。「どんな化合物でも飲み込んでしまえば、同じ効果になるだろう」と考え、経口摂取の値は委嘱団体と同じ値を使うことにした。そして、たいていのヨウ素化合物の吸入摂取は、経口摂取よりも影響が低いだろう、ということを踏襲し、3ではなく2で割ることに決定。(まったく同じ3という数字を使うことには抵抗感があったと見える。)ヨウ素単体、およびヨウ化メチルは気化した状態を想定し、「吸入摂取」の値だけをつくることにした....といった具合に適当に空欄を埋めていった。


以上はあくまでもフィクションであり、小説でしかないが、こういうことにならないように、自分で簡単に計算できるように、公式らしきものを導いておくのは、後々有用になるだろう。

ベクレルからシーベルトへの変換:実効線量係数の計算モデル

いよいよ、実効線量係数の本質に迫る内容に辿り着いた(と思いたいところだが...)。ICRP文書に基づいて作成された、カナダ政府の書類の6ページ目に"Inhalation dose coefficients"というセクションがある。「吸入摂取における実効線量計数」という意味だ。

ここには、細かいことが書いてあるように見えるが、実は概略しか書いてない。ちょっとがっかりした。が、その概略だけでも見てみよう。まず、基本となるのは「呼吸モデル」と呼ばれるものだ。人間が空気を吸ったとき、その空気に含まれる物質がどのように体中を動き回るか、というモデルだ。ちょっと考えただけでも、これは相当困難で複雑な仕事に思える。が、裏を返せば、この手のモデルはかなりチャチ、つまり大幅な近似や簡略化がされているはずだ。(だからこそ、「モデル」なのだが。)

このモデルの出発点は、直径1マイクロメートルの微粒子を考え(これは、空気中に含まれる微粒子の平均的な値なんだそうな)、それを放射能汚染の密度で空気に混ぜて、「人間」に呼吸させる。注意すべきは、この「空気」は一定の汚染密度に保たれたまま、コンスタントに人間に吸われ続けるという仮定があることだ。具体的には、成人の場合、一日の呼吸量を22立方メートル程度と仮定し、ここに放射能物質に対応する粒子を混ぜ込むのである。また、子供に対しては呼吸量を少なめに設定するので、汚染密度は高くなる。(詳しくはこちらの表を参照。)このときの粒子密度が入力値、つまりベクレルの値に相当する。

次に、年齢に応じた生体運動力学(つまり、体の中で微粒子がどう動き回るかという理論)に基づいて粒子の移動を追跡。この際、適当な人体組織の分布を考え、そこにおける微粒子の滞留時間、排泄時間なども適当な値を仮定する。(これだけ見てもかなり複雑で、到底人体の体内活動の全てを考慮し尽くしたモデルとは思えない。かりにそれを試みたとしても、かなり大雑把なモデルになる予感がある。)

最後に、こうやって体中を動き回っているうちに、放射性微粒子が何回、どんな放射線を出すか(これは半減期や崩壊形式のデータから計算できる)、そして放射時にどの組織に居たか(肝臓の場合と、骨の場合では、放射線によるダメージ具合が異なる)をチェックし、それぞれの場所での等価線量を計算し、全ての和をとる。この計算を刻一刻と行い(つまり、十分短いサンプリング時間の間隔で)、人生の50年間程に相当する分だけ計算し続ける(つまり数値積分する)らしい。(「らしい」というのは、詳しい数式がまったく紹介されてないので、想像するしかないからだ。「50年程度」という数字はここから借用した。)

このシミュレーションをやり遂げると、50年間(!)特定の放射性物質を吸い続けたときに、人体が受けるダメージの総量が計算される。(子供の場合は70歳になるまでだそうだ。)これが、出力つまり求めるべきシーベルト換算の線量となる。こうして、目出たくベクレルとシーベルトの関係(それも比例関係!!)が出るというわけだ。

例を挙げて考えてみよう。200ベクレルのヨウ素131を含んだ空気を考えよう。(含まれるのは単体蒸気のヨウ素131と考えて、まずよいだろう。)これを成人が50年間吸い続けると、一体どの程度の線量を被曝するだろうか?ヨウ素131の実効線量係数0.0074を使って計算すると、0.0074 × 200 = 1.48マイクロシーベルト。つまり、一年間の被曝量は0.0296マイクロシーベルト。さらに、一時間あたりに直すと、0.00000338マイクロシーベルト/時ということになる。(一秒あたりに換算すると凡そ0.000000001マイクロシーベルト/秒で、これは以前の計算と比べ、だいたい2倍程度のずれがある。悪くないといえば、それほど悪くないのだが...)

この文書を読んでの私の感想は以下の通り。

  1. 複雑な体内循環を数値モデルでシミュレートしたのは賞賛に値するが、それでも人体の複雑さに比べれば、あくまで「簡単な」シミュレーションであって、現実とはかなりかけ離れたモデルだろう、ということ。
  2. この係数は50年間被曝が続いた場合、つまり長期の環境破壊を念頭においた計算だったのか、という驚き。つまり、実効線量係数の現在の巷の使われ方は見当ちがいだろう、ということ。例えば、瞬間的に東京の水が200ベクレル/kgになったからといって、それに0.02といった係数を掛け、キロあたり4マイクロシーベルト/時を被曝した、といったところで、その意味はまったく不明だ。というのは、東京の水が汚染されたのはせいぜい数日であり、50年のみ続けるのは不可能だからだ。
  3. 複雑な人体構造を「一次関数」と見なして、ベクレルとシーベルトを比例関係にまとめるのは、かなり乱暴な議論なんじゃないか?ということ。常識的にはかなり非線形なレスポンスをすると考えるのが普通じゃないだろうか?(食べる量を1/2にしたら、体重はすぐに1/2になるだろうか?)

案の定というべきか、実効線量係数を使うときは、その適用範囲に注意しなければならないことが分かって来た。JET(核融合ヨーロッパ共同研究所)の元研究員だった、件のイタリア人から最近届いたメールにあったコメントを引用しよう:Bq is more scientific. Sv makes sense just for the public and medical doctors.

ここでの考察を元に、もう一度、巷に出回っている実効線量係数をみてみよう

ベクレルからシーベルトへの変換:実効線量係数は誰が決めたのか

実効線量係数は、各機関によって若干異なる場合もあるし、その化学状態によっても異なる。仮に正しい化学状態(つまり単体蒸気)を採用しても、その水溶物の経口摂取に関しての値は存在しない。これだけの事実を鑑みても、ベクレルとシーベルトを直接関係づけるのは、不確定要素がある。

では、一体全体、この係数はどうやって決めたんだろうか?こういう疑問が出てくるのは当然だと思う。(とはいうものの、政府機関やマスコミ、さらには多くの変換プログラムやネット上の情報サイトでは、この係数を鵜呑みにして利用しているようだが....というか、正確に鵜呑みにしてくれればまだしも、誤用している場合も多々見られる。)この情報を探り当てるのが、実は一苦労だった。

最初にヒントになったのが、文科省の委託事業(天下り事業?)の公益財団法人原子力安全研究協会(似たような天下り団体がたくさんあるような気がする...)の運営する緊急被曝医療研修のホームページにあった文。それによると、ICRPなる国際機関が存在し、そこで最初の議論があったらしい。日本の政府関係省庁/団体は、(若干の修正はあるとしても)基本的には、ICRPの結果を引用しているだけのようだ。

ICRP(International Commission on Radiological Protection)、日本語に訳すと「国際放射線防護委員会」というらしい。1928年創立で、事務局はスウェーデン(ストックホルム)にあるそうだ。この国際機関は、その議論内容や決定事項を冊子の形体で発表している。この本が実は有料で、しかも結構高価($110、今のレートで9000円ちょっと)なのが、ちょっとえげつない。研究費で買おうかとも思ったが、欲しいのはヨウ素131の実効線量係数だけなので躊躇した。東大の図書館にでも行けば見せてくれるかな、と思い直す。ちなみに、ICRPのサイト内で検索を掛けても文書の公表はしておらず、がっかりさせられる。見たいのは、この係数のデータが載っているICRP年次報告書第68巻(ICRP Pub.68)およびICRP年次報告書第72巻(ICRP Pub.72)である。


他の調べものをするため、ネット検索していたら、カナダ政府の健康庁(正式な名称は知らないが)のホームページに、ICRP Pub.72の結果の写しがあることを発見。さっそく、読んでみることにした。しかし、この表の写しが、またの混乱を助長しそうな書き方で閉口してしまった。(というか、私は実際混乱した。)

その理由は、このICRPの表には、化合物別の値が書いてなくて、その代わり年齢別の値が書いてあったからだ。それは、3ヶ月、1歳、5歳、10歳、15歳、そして成人の6パターンで、ヨウ素131の欄を見ると、成人の場合は吸入摂取は0.0074 (μSv/Bq)となっていて、これは文科省の委託事業(公益財団法人)のホームページと同じ値だった。経口摂取という欄はなく、代わりに外部被曝の場合の値が書いてあった。(これは単位も違うし、日本政府はこの値は完全に無視しているように見える。)

ちなみに、吸入摂取の場合、同じベクレルの放射能の影響を受けたとしても、1歳以下の子供たちは、成人の約10倍の線量を受けたことになるように係数は設定されていた。つまり、幼児の放射線リスクは大人の10倍だということだ。15歳以下の子供たちのリスクも、成人に比べるとオーダーが一つ上がっていて、凡そ数倍から10倍程度リスクが大きくなるように係数が決められていた。(体が小さいんだから、同じ量を摂取した時、影響が大きくなるのは当然だ。)

このように、統一性のあまりないように見える「実効線量係数」だが、どうやって「計算」されたのか、その概要がついにこの文書中に見つかった。(ちなみに、実効線量係数は英語でEffective dose coefficientという。)

2011年4月15日金曜日

ベクレルからシーベルトへの変換:化合物としてのヨウ素131の形

ヨウ素の化学的形態(化合物)によって実効係数が異なるらしいことを見てきた。そこで、ネットで検索を掛けて、それらしい情報をもっているものを探してみた。最初に出てきた2つのサイトが、多分、一番信用できそうだと判断。

まずgoogleで二番目に出て来た日立の原子炉設計に関わる特許の説明書を見てみよう。(ちなみに、日立は福島第一原発の4号機の製造者だ。)「発明の詳細な説明」の0003セクションを引用すると、
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は、放射性ヨウ素化合物の主成分を単体ヨウ素Iとし、これが環境に放出されないように構成されている。

この特許は、原子炉から排出される排気ガスに含まれる放射性ヨウ素を「濾し取る」ための技術らしい。従来は単体ヨウ素の気体を排除するようなシステムだったが、この特許でヨウ化セシウム(恐ろしい!)などといった微粒子でも排除できるようになった、と強調している。

原子炉を作った本人がこう言ってるのだから、ヨウ素131がとる化合物の主成分は、単体のI2というのは間違いないだろう。ヨウ素の単体は融点113度程度、そして沸点が184度程、ただし昇華(固体から気体に一気に変化すること)しやすいらしいから、原子炉中では「単体の蒸気」に相当する。したがって、この蒸気が空気中の水分に溶け、雨となって降下するのが、おそらく汚染の主要メカニズムと思われる。(といっても、Wikipediaによると、水への溶解度はあまり高くなく、50度の場合100ccの水に約0.08グラム。)

googleで最初に引っかかったサイトも見てみよう。それは東芝の原子炉設計に関わる特許の説明書だ。(ちなみに、東芝は福島第一原発の3号機と5号機の製造者だ。)その「発明の詳細な説明」の0019セクションを引用してみよう。

【0019】ところで本実施例で使用する銀またはカドミウムの量は以下のヨウ素との反応を考慮すれば、ヨウ素が事故時に燃料中からI2 の形で全量放出されたとしても最大20kgであることから、銀,カドミウムいずれも18kg程度であればよい。


2Ag+I2 → 2AgI …(1)2Cd+I2 → 2CdI …(2)


この特許は、銀やカドミウムなどを利用して、放射性ヨウ素を粉粒体(ヨウ化銀やヨウ化カドミウム)に変えてしまおうという技術だ。微粒子であればフィルターで除去できる、というわけだ。上の化学式に、処理すべきヨウ素の化学的形態が記載されている。それは単体ヨウ素、つまりI2。つまり、ここでも原子炉内の放射性ヨウ素の化学的形態は「単体蒸気」が想定されていることが確認できる。

ところで、この東芝の特許は、メルトダウンが起きたり、電源が喪失したときでも、放射性ヨウ素が原子炉の外に飛散するのを防ぐための特許だと主張している。皮肉なことに、今回の事故ではこの特許はまったく無意味な存在だった。この特許文書の0011のセクションを以下に引用しておこう。

【0011】本発明は上記課題を解決するためになされたもので、何らかの事故時に原子力発電所の電源が確保できないような場合にも、ヨウ素の環境への放出抑制並びに炉心の再臨界を防止できる原子炉内構造物を提供するものである。

ヨウ素131は、主に単体蒸気の形で放出されることがわかった。それは、毎日新聞の記事が「ある意味、不正確」なことを書いていることを意味する。

前回の議論で見た毎日新聞の記事に再び戻ってみよう。それは、「1ベクレルの放射性ヨウ素(ヨウ素131のこと)は、経口摂取の場合0.022マイクロシーベルトに相当する」というものだ。これは、おそらく実効線量係数のデータに基づいて書かれた記事だと思われるが、その係数は、蒸気、ヨウ化メチル、ヨウ化メチル以外の化合物で異なっていた。そして、毎日新聞の値は、経口摂取の場合のヨウ化メチル以外の化合物に対応している係数になっていた。しかし、日立や東芝の特許文書を見る限り、この記事で採用された値は「トンチンカンなもの」だといえよう。その理由は2つ。まず、放射性ヨウ素は主に単体蒸気の形であるということ。次に、単体蒸気の場合、経口摂取に対応する係数は存在しないということ。


しかし、毎日新聞に同情する余地もある。それは、日本人がいま気にしているのは、水に溶けた単体ヨウ素であったり、ほうれん草に吸収された単体ヨウ素であったりするからだ。これらは単体ではあるが、蒸気ではない。とすると、吸入摂取にはあたらず、経口摂取を考えたくなるのは当然だ。しかし、どのデータをみても、単体ヨウ素の経口摂取に対する実効線量係数は存在しない。「どうすればいいんだ!」と叫びたくなる。この議論は更に続く

ベクレルからシーベルトへの変換:混乱している現状

毎日新聞の記事Web版:四月十二日22:41の記事)に、ベクレルとシーベルトの解説があった。ちょっと引用してみよう。
【ことば】テラベクレル : ベクレルは放射線を出す能力(放射能)の強さを表す単位。テラは「1兆倍」を表す。1テラベクレルとは、1秒間に1兆回の原子核崩壊が起きる際の放射能の強さを示す。標準的なラドン温泉1トンが持つ放射能は約1000万ベクレル。一方、シーベルトは放射線の人体への影響を示すもので、1ベクレルの放射性ヨウ素を経口摂取した場合の人体への影響は、0.022マイクロシーベルトとなる
 最後の部分がひっかかった。実はここがいつも引っかかる。以前ベクレルとシーベルトについて考察したが、その後あちこちのサイトで見ると、その説明や計算、分析にかなりばらつきがあることに気がついた。一生懸命調べてみたのだが、なかなか答えが見つからず困っていた。しかし、今日ようやく解決の糸口が見えてきた。

まず、上記の毎日新聞の記事は、いったいぜんたい、どうやってそういう結論に達したのか調べてみた。そのヒントは、文部科学省の環境放射能データベースにあった。このデータベースのサイトに入り、そのページの下方を見ると、「実効線量係数の例」の表がある。

この表の131I、つまりヨウ素131(蒸気)の欄を見ると、2.0×10-5 (mSv/Bq)とある。ミリシーベルトをマイクロシーベルトに変換すると、この数字は0.02マイクロシーベルト/ベクレルとなって、毎日新聞の記事にほぼ一致する。つまり、ヨウ素131から出てくる1ベクレルの放射能は、0.02マイクロシーベルトの線量に対応する、ということだ。

実は、毎日新聞では「経口摂取したとき」とあるので「ヨウ素131が溶けた水を飲んだ時」という意味になる。「蒸気」の欄には経口摂取のデータはない。文部科学省のデータをさらに見ていくと、ヨウ素131(ヨウ化メチル以外の化合物)という欄があって、そこには経口摂取のデータが書いてあって、毎日新聞の値と一致している。また、これ以外にも、ヨウ化メチルという形態に体する吸入摂取の値が書いてある(経口摂取はない)。

NPO法人の原子力資料情報室(CNIC)によると、経口摂取の場合の実効線量係数は0.022マイクロシーベルト/ベクレル、一方吸入摂取の場合は0.011マイクロシーベルト/ベクレルとある。さらに、面白いことに、文科省の委託事業「公益財団法人原子力安全研究協会」が発行するデータには、ヨウ素131の経口摂取の実効線量係数は0.022マイクロシーベルト/ベクレル(NPO法人と同じ)、そして吸入摂取の場合は0.0074マイクロシーベルト/ベクレル(まったく新しい数字!)となっている。

ここで、すでに混乱が見られる。上のデータをまとめてみよう。

機関(実効線量係数文科省(蒸気)NPO、文科省(非ヨウ化メチル)公益財団法人
経口摂取(μSv/Bq)データ無し0.0220.022
吸入摂取(μSv/Bq)0.020.0110.0074

さらに、文部科学省が発行した公式文書を読むことができる。これは、平成18年12月26日に最終改正版が出ている105ページの長い書類で、放射線に関わる様々な量に関して「文科省による定義」を与えている。(実は似たような文書が旧厚生省からも発表されている。)66ページ目にヨウ素131に関する定義が載っている。文科省のデータベースと同じように、ヨウ素の3つの化学的形態について、異なる実効線量計数が与えられている。まとめると、

文科省文書(平成18年12月)
--------------------------------------------------------------------------------
 形態                      吸入     経口
--------------------------------------------------------------------------------
単体(蒸気): 0.02     -            
ヨウ化メチル: 0.015   -
その他   : 0.011   0.022(NPOの値と同じ。経口は法人と同じ)
--------------------------------------------------------------------------------
単位(マイクロシーベルト)

131I(蒸気:単体)と131I(ヨウ化メチル)の2つの場合は、吸入の場合しかデータがない。その値は、ヨウ素単体よりもヨウ化メチルの方が若干線量が低くでるよう設定されている。ヨウ化メチルというのは、ヨウ素の炭水化合物でCH3Iと表される。最後の形態が、131I(ヨウ化メチル以外の化合物)で、この場合は、NPO法人の値とまったく同じになっている。経口摂取の値だけを見ると、公益財団法人(原子力安全研究協会)のものと一致しているが、吸入摂取の値は全く異なっている。

さて、人々の関心は、水に溶けたヨウ素131であったり、ほうれん草に取り込まれたヨウ素131だ。原子炉から飛んで来たヨウ素131は、果たしてどんな化合物の形態になって我々の環境を汚染しているのだろうか? この続きへ。



2011年4月12日火曜日

千鳥ヶ淵の桜

仕事の後、千鳥ヶ淵へ寄る。今年の東京の桜はどこか寂しい。入学式も卒業式も取り消しになってしまったし、講義開始も5月の連休の直前までずれ込んでしまった。なにより、寒い冬が長く、春が徐々に深まる前に、梅、桜、モクレン、菜の花、などが一斉に咲いてしまい、そして一斉に終わりそうだ。今日も夕方、雨が降った。桜はもう散り始めている。

雨が降り始めてしばらく経った頃、神保町の古本街を歩いていたら、突然目眩のような感覚に襲われた。街路樹を見上げるとみな一斉に揺れている。長い横揺れの地震だった。上から看板が落ちてくるかと思って上を見上げたほど。このとき、迂闊にも「放射能汚染」の雨に顔を濡らしてしまった。東京堂に入って雨宿りしていると、店内のラジオから、福島第一原発の電源が寸断し冷却できなくなった、という放送が流れて来た。予定を切り上げ、急いで家に戻ることにした。

その途中、清水門の手前で、牛ヶ淵の向こうに見えた武道館の桜を写真に収める。


侘びぬれば桜も雨の涙かな。

追記:福島原発の注水は1時間足らずで回復。ことなきを得た。しかし、福島沖の地震活動は活発化しているようで、同じような危険は繰り返しおこる可能性がある。

2011年4月11日月曜日

福島原発事故:状況把握のためのリンク集(その2)

前回のリンク集に加えるべき、役に立つサイトへのリンク集を再度まとめたい。
  1. 全国の放射能濃度一覧: 保安院、東電、官邸などから発表されるデータはデジタル化されてないどころか、書類をスキャンしただけのみすぼらしい写真(pdf化はかろうじてされているが)。書類の数だけは増えていき、書いた本人たちも収拾のつかないことになってるんじゃないだろうか? そんなバラバラの情報を、可視化してくれるのがこのサイト。ひとえにすばらしい。無力な原子力委員などを高給で雇うよりは、このサイトの作者こそ、高給で政府に雇われるべき。
  2. DWD: ドイツ気象庁の発行する大気拡散シミュレーション。あくまで、「拡散」しているかどうかの予測計算であって、実際の汚染物質の分布ではないことに注意。とはいえ、単なる拡散ではなく、気象データ(低気圧、高気圧の位置など)や地形データを考慮して計算しているようなので、拡散シミュレーションとしては、個人的には最も信頼している。その他、英国の気象データサービス会社(Weather online UK)のものなどもあるが、汎用拡散モデルに基づくシミュレーションのようらしい。ただ、核種に応じた拡散モデルなので、重い原子核ほど飛び難い様子がよくわかる。日本の気象庁とか、SPEEDIとかのホームページは(外国のものに比べると)不便で役にたたない。
  3. 米国立核データセンター(NNDC): 分かりやすいインターフェイスで、様々な核データを提供してくれる。日本の政府機関に見習わせたい。特に役に立つのが、崩壊モードのデータ(例はU-235)と、核質量のデータ(RIPL)。ある放射性原子核が放つ放射線の種類を調べたり、その放射線のもつ最大エネルギーを計算したりするとき、役に立つ。
  4. JENDL:東海村に本部をおく日本原子力機構(JAEA)が公表する中性子散乱に関するデータ。日本政府の関連機関のホームページとしては、よくまとまっていて、使いやすい。中性子捕獲断面積や、弾性散乱断面積の測定データが載っている。ホウ素がどうして投入されるか?塩素38とナトリウム24はなぜ対で見つかるべきか?など、中性子に関する事柄を調べる時、とても重宝する。生データはチンプンカンプンなので、tableを利用するとよい(例はホウ素10のデータ)。
  5. Videonews.com: 企業がスポンサーになっている報道機関は、骨抜きの報道しかしない。有名なのは東京電力...メジャーな報道機関に多額のスポンサー料を払ったり、マスコミ各社の役員を慰安旅行に接待したりしているようだ。そんな、マスコミに嫌気がさした記者や学者たちが、一念発起して立ち上げた独立系のネット報道社が、ビデオニュースドットコム。ちょっと、偏った報道が多いのが気になるが、掘り出し物の情報も時々手に入る。京都大学原子炉の小出先生の解説を聞くことができる。
  6. 早野教授のTwitter: 東大理学部の早野教授が書くtwitter. たびたびの海外出張、実験などの激務の中、的確な分析考察、古い資料の発掘など、超人的な活躍を見せている。(寝てないんじゃないか?追記:ご本人曰くボクハ ネテイルゾ. ホンニンガ イウノダカラ マチガイ ナイ」だそうです。)また、彼のフォロワーも優秀な人が多く、有益な情報を提供している。ただ、Twitterの形式なので、情報が乱雑で整理されてないのが玉に傷。速読の能力が試される。

再臨界に対する反論

カウンターパンチと同じ意味で使うのが、カウンターアーギュメント、つまり反論。

塩素38の検出で再臨界か?と疑問を投げかけた京大の小出先生に対し、それだけで結論を出すのは時期尚早だ、とする反論が東大の早野先生から出た。

一号機の溜まり水から3/5に塩素38が検出されたとする東電の報告だが、以前議論したように、これが本当なら海水中の塩素37が中性子を捕獲した結果のはず。とすると、これは強い中性子線が原子炉付近で飛び交っている間接的な証拠となり、再臨界した、という論理展開になる。

しかし、海水が塩辛いのは、主に塩、つまり塩化ナトリウムが溶けているからで、塩素イオンがあれば、かならず同量のナトリウムイオンも溶けている。天然に存在するナトリウム同位体はナトリウム23しかない(つまり100%)。とすると、塩素38が検出されるならば、ナトリウム23も検出されるはずである。

早野先生のホームページには、そのあたりの詳細な議論が載っているが、まとめると、ナトリウム23と塩素37の中性子捕獲の確率はほぼ同じ。(以前議論したように、量子力学に従うミクロな物は、別の粒子をぶつけようと思ってもなかなかぶつからない、という不思議な性質がある。この結果、あるエネルギーで飛んでくる粒子が、標的核にぶつかるかぶつからないか、というデジタルな問いはあきらめて、ぶつかりやすいかぶつかりにくいかを確率で表す、ある意味「アナログ」で表す、ことになっている。)

また、東電は核種の同定にガンマ線を利用しているようだが、ナトリウム24と塩素38の電磁放射で出てくるガンマ線のエネルギー領域はほぼ同じなので、片方を見つければ、もう片方もかならず見つけられる。

つまり、ナトリウム24と塩素38は、二卵性双生児のようなもので、微妙に似てないけど、結構良く似た粒子だ。よって、片方しか見つからないということは、ちょっとありえない、という論理が早野先生の考え。

再臨界の可能性

再臨界したらしい、という噂が飛んでいる。

京大原子炉の小出さんは、その可能性が捨てきれない、という。その理由の一つは、半減期が8日と短いヨウ素131のレベルが、30日経ってもなかなか減ってこない、ということ。そして、もう一つは、首相官邸の発表した資料によると、3/25時点でCl-38(塩素38)が1号機のタービン建屋の溜まり水から大量に検出されていた点だ。(1立方センチあたり160万ベクレル。)

自然界に存在する塩素同位体は、塩素35(約76%)と塩素37(約24%)の2つ。塩素38は自然界には存在しない。この放射元素は、ベータ崩壊を通して壊変し、その半減期は37分。つまり、もし塩素38が検出されたのであれば、塩素37に中性子が大量にぶつかって吸収されている、と考えるのが自然だ。中性子がひゅんひゅん飛ぶ現象は、連鎖反応しかない。つまり、再臨界の可能性がある、というわけだ。

これを裏付けるように、4/8の1号機の放射線量が突然3倍に跳ね上がった。α崩壊やβ崩壊しているだけしているなら、放射線量は時間と共に次第に減少していくはずだ。放射線量が増えるということは、放射性物質が増えたということ、つまり新たに作り出されたということを意味する。そんなことが可能なのは、核分裂しかないが、自発核分裂は確率が低く、線量の増加には寄与しないはず。とすると、連鎖反応が再開したと考えるべきだろう。

ところが、この跳ね上がったデータは「計器の故障によるもの」と東電が発表した。また、Cl−38が観測されたというデータも「間違いではないか」という専門家も出てきた。これらが本当なら、再臨界は起きていないことになる。

この議論に決着をつけるのは、中性子線の直接測定だ。1号機の外に検出器を置くだけの話だし、東電は絶対そのデータを握っているはず。しかし、このデータはどこにも発表されてない。なにを隠しているのだろうか?巷の混乱を沈めるためにも、早く各炉ごとの中性子線測定データを公表すべきだと思う。

2011年4月10日日曜日

ガイガーカウンターで放射性鉱物を測定する(埼玉の小松菜も)

次に、ラジウムを豊富に含む重晶石の一種(Hokutolite)を測定してみた。これにはバチバチ反応した。メーターリードは1〜10μSV/H程度を示す。ラジウムはα崩壊するが、崩壊後の原子核も放射性物質となり、安定核である鉛206に辿り着くまで、α崩壊を5回、β崩壊を4回行う。アルファ線、ベータ線、ガンマ線、反ニュートリノなどが飛び出してくるが、もちろん測定するのはβとγ。そのエネルギーレンジは0.064MeV(鉛210のベータ崩壊)から7.83MeV(ポロニウム214のアルファ崩壊)に渡る。

Hokutoliteからの放射線を測定中。

最初のα崩壊、つまりラジウムの放射性崩壊は
22688Ra →(α:1601y)→ 22286Rn
で、半減期が1600年ほど。アルファ線とガンマ線を放出する。ガンマ線の最大エネルギーは4.87MeV。

ところで、このガイガーの較正に使用されている、セシウム137はβ崩壊して、まずはバリウム137の励起状態に遷移する。続いて、電磁放射で、0.662MeVのガンマ線を遅れて放出する(delayed gamma ray)。このγに合わせて測定部分は調整されている、ということの意味を考察してみよう。

4.87/0.662 = 7.3565...だから、ラジウム226がα崩壊する際に出るガンマ線は、セシウム137のガンマ線の約7個分のエネルギーを持っている、ということになる。DX-2が認識するエネルギーは7 × 0.662=4.634(MeV)となるから、この場合の誤差は(4.87-4.634)/4.87 *100 = 4.8%となる。

4.634 (MeV) = 4.634 * 1.6×10-13 ジュール = 7.4 ×10-7 (μJ)である。この放射エネルギーを受け取る人間の体重を60kgと仮定すると、対応する線量は7.4 ×10-7/60 (μJ/kg)=1.2×10-8μ Gyとなる。

次に、この放射線が1秒間に何回放出されるか推定しなくてはならない。較正に使ったのはセシウム137(半減期τ=30年)なので、それを用いてみる。まず、t=0でN0個のセシウム137があったとして、ここから放射線が飛んでくるとする。t秒後の時点で飛んでいった放射線の個数は、半減期の定義から、
N(t)=N0(1-2-t/τ) 
となる。t<<τとしてテイラー展開する。2-t/τ=e-t ln(2)/τだから、
2-t/τ〜1-ln(2) t /τと近似できる。したがって、
dN(t)/dt = N0 ln(2)/τ
が得られる。

仮に、線源のセシウム137が1.37×10-2マイクログラムあったとすると、放射速度は4.5×104 (1/秒)と計算される。

この割合で1時間放出し続けると、、1.2×10-8 * 4.5×104 * 3.6×103 = 1.9 μGy/h。ベータ線もガンマ線も、実効係数は1だから、結局おおよそ毎時2マイクロシーベルトという結果になって、測定結果とだいたい合う。

というか、測定結果に合うように、放射速度を仮定した....この仮定はかなりいい加減だから、出て来た結果には注意しなくてはならない。逆に見れば、測定結果に合わせるためには、鉱物中に0.0014マイクログラムのセシウム137に相当する放射能がある、ということだ。(極微量と考えるべき量。)

実際の崩壊はもっと複雑で、5つのα崩壊と4つのβ崩壊を組み合わせ、しかもそれぞれの寿命が164マイクロ秒のものから1600年のものまで多岐に渡る。つまり、エネルギーや線量で結果を表示するガイガーカウンターの数値は、あまり信用しないほうがよさそうだ、という結論だ。ただ、自分自身で、各々の崩壊を正しく分析し、注意深く較正曲線を作り直して使えば、結構いい予測ができる可能性もある。

最後に、さいたま産の小松菜および茨城県の工場で加工したジュースの放射線の測定してみた。結果はバックグランドと同程度、つまり0μSvであった...(福島産のほうれんそうを是非入手して測定してみたい。)


ガイガーカウンターで放射性鉱物を測定する

大学にあるガイガーカウンターで、放射能を持つ重晶石からの放射線を測定をしてみた。現在、世界的に、ガイガーカウンターは品切れ/在庫切れの状態で、手に入れるのが大変らしい。
放射性鉱物を測定中のガイガーカウンタ。
1マイクロシーベルト/時を示している。
このガイガーカウンターはアメリカITS社のDX-2という製品で、β線とγ線を測定できる。とはいうものの、較正をCs-137のγ線で行っているため、他の放射線に対しては結構な誤差があると思われる。仕様書によると、その精度は±20%だというから案の定である。(感度はCs-137に対して最も良く、その値は250 cpm / 0.1mR/hr (10µS/hr) 。1分間に250回以上放射線が来ると測定できなくなってしまう、という意味だろう。)

Wikipediaによると、ガイガーカウンターというものは、そもそもは放射線の個数を計測するものであって、放射線のエネルギーを測定するものではない、とある。(バーのカウンターとか、カウンターパンチとか、カウンターにはいろんな意味があるけど、ここでは「数を数える」という本来の意味。)このコメントには強く同意する。というのは、実際に売られている(安い)ガイガーカウンターを見ると、線量(つまりエネルギーに相当)で結果を表示するものが多く、前々から何か変だなと思っていたのだ。

これを可能にするには、計測個数と線量を関係づける関数を仮定して線量を推測しているはずだ。この関数は、較正実験を通して近似的に求めているようで、そのために素性のよくわかったセシウム137やコバルト60の放射線(γ)を用いて実験を行っているらしい。つまり、安いガイガーカウンターで測る線量の数値は、あまり信用できないと思った方がいいだろう。ただし、放射線の有無を確認したり、相対強度を調べたりする程度であれば、十二分に用を足すと思う。そういえば、学生のころの学部実験で、コバルト60を使って較正曲線を作ったのを思い出した。今居る大学には放射線管理区域はないので、放射性物質であるCs-137やCo-60のサンプルは保有できない。

さて、大学の鉱物標本の中にウランを含む鉱石(さすがに天然ウラン鉱石ではない!)があったので、まずはそれにガイガーカウンターを近づけてみた。結果は反応無し。

ウランの崩壊形式はα崩壊(ほぼ100%)と自発核分裂(ほぼ0%)、つまり出す放射線はα線、γ線、そして中性子線など。このガイガーではアルファ線と中性子線は検出できないから、α崩壊時に出るγ線が頼りとなる。しかし、その崩壊寿命は45億年もあるので、鉱石中のウラン原子核の数が少ないと、ほとんど崩壊する場面にはでくわさない、ということだろう。(実際、この鉱石の大きさは手のひらサイズ程度しかないし、しかもウランは不純物として入っている程度だろうし。)

ラジウムの測定へとつづく。

2011年4月7日木曜日

蓼科の牧場へ昼飯にいく

春がようやく来た。東京は今日桜が満開となった。

蓼科のいつもの牧場へ、ピザを食べにいった。客はほとんどおらず、貸し切り状態。マルガリータと紅キャベツ/ハムの2枚を頼む。いつものおいしさを静けさの中で楽しむ。アルプスの峰峰が、牧場の彼方に覗いていた。

2011年4月6日水曜日

三日月の観測

今日の月は月齢2.5日。細い三日月状の形で、西の夕空に光っていた。
久しぶりの月の撮影。

拡大して見ると、まずは右上に危難の海がよく見える。そこから左下に下りてくると、ラングレヌスとペタビウスが見える。この2つのクレーターは、真ん中に小さな山を持っていることがわかる。隕石衝突の反動で盛り上がったのだろうか?

少し長めのシャッター時間を選択して、夕空に浮かぶ月の地球照を写してみた。今日は「兎」が逆立ちしていることがわかる。(これを蟹とみるのがヨーロッパ。)

おおぐま座の星雲(M81,M82)の観測

星ナビ4月号の付録に、おおぐま座の星雲の見つけ方が書いてあったので、さっそく試してみることにした。

前回、なんとか撮影に成功したM51(子持ち銀河)は、遥か2100万光年先にある銀河だったので、実は暗くて見つけ難かったのだった。しかし、広角レンズで撮影したので、運良く記録することができた。そこで、今回は望遠鏡を使い、もう少し近くて明るい銀河を、大きく、もっとくっきり撮ってみようと重い、M81とM82に挑戦してみることにした。

両者ともに、地球からの距離は1400万光年だから、M51に比べて2/3の距離にある。光度はM81は7.8等、M82は9.3等であり、前者はM50より随分明るいはず。しかし、眼視では残念ながら見つけられなかった。

写真に切り替え何枚かとったところで、ぼやっとした雲のようなシミが写った。画像処理したのが、下の写真。シャッタースピードは30秒なので、まさに「雲」状にしか写っていないが、2つの銀河が接近して存在している様子がちゃんと記録されていた。

左上がM81, 右下がM82
この2つの銀河は、実際にも近接しているとのことで、M82はM81に重力で引っ張られているらしい。

この後、M101にチャレンジしてみた。M101は1900万光年なので、少し遠めの銀河。これも、残念ながら目で確認できず。写真にとってみると、なんとなくそれらしい天体は写ったが、はっきりせず。再度挑戦する必要あり。

さらに、M50に挑戦してみたが、写っていなかった。残念。まだまだ修行が必要と思い知る。

毒蛇の舌(日本当局の反応)

日本の当局がひた隠しにしていた放射性物質の拡散シミュレーションの結果だが、ドイツをはじめとする諸外国からの情報がネット経由で流れこむ状態となっていた。この状況を、東京新聞が昨日最初に報道して以来、ついに圧力に押される形で、日本の気象庁も計算をしぶしぶ出し始めた。

計算精度は、ドイツ、英国といったヨーロッパのものに比べると、際立って低いものの、その計算は同じような結果となっている。つまり、日本の当局も、福島第一原発から拡散する放射能物質が、東北、関東に留まらず、関西を含む西日本にも影響を及ぼし得ることを認めた、ということだ。

注意すべきは、この計算結果は「汚染マップ」ではない、ということだ。あくまで、飛散する可能性を確かめる計算であって、もともとの飛散物質の濃度が低ければ、遠距離の地域に関してはほぼ問題ないはず。シミュレーションの結果と、実際の測定結果、さらには降雨のタイミングなどと、組み合わせて判断すべきものだ。

朝日や毎日などメジャーな新聞社は、おそらく、外国のシミュレーション結果について知っていたと思われるが、日本政府と同調していていたか、ぼけーっとしていたかのどちらかの理由で、いままで報道してこなかった。気象庁が公開して、やっと報道した程度。東電や原子力保安院の情報公開もだめだが、日本の新聞社やテレビの情報公開能力もだめだ。太平洋戦争が終わった時、報道統制に屈したことを心より反省した、あの記事も偽物だったか?

2011年4月4日月曜日

「ふるさと」の歌

「兎追いしかの山....」
被災地で演奏され、歌われ、人々を元気づけている歌「ふるさと」。
日本の国歌にふさわしいのでは、とかつて議論されたことがあったのを思い出した。

2011年4月3日日曜日

毒蛇の舌:放射能物質の飛散シミュレーション

現在までの報道を見る限り、福島第一原発から拡散する放射性物質のうち、ヨウ素131とセシウム137の飛散が問題となっている。両者ともに揮発性の物質だということで、気化して風に乗って飛散しやすいからだという。高層中の気化物質が地上に降りてくるタイミングは、「水に溶けた時」つまり降雨のとき。実際、東京の水道水が汚染されたのも雨が降った後だった。

ヨウ素131の半減期は8日なので、飛散直後に汚染された水、土ぼこり、雨水に多く含まれるはずで、触ったり、吸い込んだり、飲むのをなるべく避けるべき。とはいえ、一週間程度で崩壊して安全な物質へと変わるので、家で一週間じっとしていれば、切り抜けられる。

一方、セシウム137は半減期が30年程度なので、長期間に渡って影響が持続する。特にまずいのが飲み込んだり、吸い込んだりすること。つまり、内部被爆だ。

セシウム137で一度汚染された土地では、そこから逃げるか、あるいは大規模な除染以外打つ手はないだろう。今のところ、その飛散量は少なく、汚染期間が短いので問題はないだろう。しかし、環境汚染が長引くと吸い込んだり、飲んだりしてしまって、体内被爆の可能性が高まる。これが一番よくない。その量が少ないならば、セシウム137を体内に取り込んでしまっても、排泄される割合は大きいだろう。しかし、大量に摂取してしまうと「体内残留するのはわずかな割合」だといっても、その絶対値は大きくなる。極端な例で言えば、1gの0.1%は0.001gつまり1ミリグラムに過ぎないが、1トンの0.1%は1kgにもなる。放射線の影響は「割合」ではなく「絶対量」だから、たくさん体に入れるのがとにかくよくない。(半減期の長い放射性物質は、その放射期間は長期に渡るが、量が少なければ放射線が出る間隔が長くなる、つまり頻度が下がる。こうして、組織修復のサイクルに比べて組織破壊のサイクルが長くなり、悪影響は抑えられると思われる。)

福島の事故現場から環境中に漏れだしている放射性物質はまだ少ないし、濃度も低い。しかし、どうもその漏れだす期間が長期化しそうな気配だ。半減期の長いセシウム137のような放射能物質の場合、その濃度が低いとしても、健康に対する影響はその時間と空間の積分できまるから、長期化すると実質的な問題となる。特に、食品となる植物/動物は汚染物質を年々濃縮する性質があるから、そういうのを「長期間」食べ続ける状況はとにかくよくない。どのくらいよくないかを定量的に示すには、正確な地形、気流、海流、気象データを使って流体モデルや拡散モデルをつくり、1月、1年、10年などといった期間別に、シミュレートする必要がある。

そういう数値計算シミュレーションは世界各国にあって、特にチェルノブイリで苦しめられたヨーロッパ諸国にはそういうソフトウェアがいろいろあるようだ。日本も多額の税金を使って放射性物質拡散シミュレーションのプログラムを開発したらしい。SPEEDIと呼ばれている計算システムだ。面白いことに(というか不思議なことに)SPEEDIのホームページでは、SPEEDIの結果を見ることは出来ない。なぜかわからないが、その計算結果を公表していない。普通は、天気予報のように、定期的に計算した結果を公表するべきものなのに、なにかが変だ。このシステムで計算した結果は、事故の約二週間後、ただ一回だけ、原子力安全委員会からPDFの形で公表されただけだ。こんなに遅い発表では、避難するときの手助けには到底なりえない。

SPEEDIなぞに頼らなくても、日本の科学者だったら、自前でシミュレーションプログラムを書いて、もっと「スピーディに」役に立つ情報を発信できるはずだ。しかし、報道によると、そういう計算を「自粛」するよう通達があった、というから驚いた。この通達を出した人間が何を考えているかわからないが、世の中が日本だけしか存在しないかのような、モノの考え方だ。日本の科学者がやらなくても、世界の科学者は、もう既に毎日毎日計算を行い、天気予報のように「放射能予報」を行っている。

ドイツの気象庁(DWD)の計算の例が次の写真。


ドイツ気象庁による、放射能物質拡散シミュレーション(「放射能予報」に相当)。
4月3日に計算した3日後の予想。
西日本にも「放射能をもった雲」が広がる様子が見える。
4/4に計算した明後日(4/6)の「放射能予報」。
東京、大阪、名古屋、京都、神戸、福岡といった大都市はもちろん、
中国地方、四国、九州も「雲」の下になった。
特に、仙台の海岸沿いには放射能の強い雲がかかっている。

DWDの計算は毎日更新されているので、福島から放射性物質が出続ける限り、天気予報とともに、毎日確認すべき情報だろう。つまり、放射能物質の広がりだけでなく、雨の降るタイミングも知る必要があるからだ。

もう一つは、英国の気象サービス会社の提供するシミュレーション。ドイツ気象庁と異なり、複数のモデルに基づく計算結果を比べてみることができる。また、放射性物質別に広がりを見ることができる。(重い同位体は飛び難いので、ヨウ素131とセシウム137の飛び方は若干ずれがある。)Loopを選ぶと、拡散の様子をアニメーションでみることができる。その様子はまるで「毒蛇の舌」のように見える。(濃度の濃い赤い部分に注目してみた場合。)

FLEXPART拡散モデルによる、ヨウ素131の4/4の拡散予想。
赤い部分が毒蛇の舌のようだ。
同じモデルで計算した、セシウム137の拡散予想(4/4)。
ヨウ素131より重いため、飛散距離が短いのがわかる。

計算結果を見ればわかるように、放射性物質は国境を超えて飛散している。計算結果だって、ネットをつかって国境を超えてくる。日本の為政者たちは「国際化」しないといけない。

注意:「蛇の舌」のシミュレーションは、福島原発から発せられる「放射能物質の濃度」を100%として、それがどうのように拡散していくかを計算している。したがって、大元の、つまり福島原発の濃度の絶対値が低ければ、「蛇の舌」に舐められたとしても、短期的にはそれほど問題にはならないだろう。問題となるのは、福島原発からでる放射能が強い時や、何度も何度も蛇の舌がやってくる場合。