2011年7月22日金曜日

NHKスペシャル(広がる放射能汚染)の分析:セシウムによる土壌汚染

先日、NHKスペシャルでシリーズ原発危機というのがあった。特に、その第二回「広がる放射能汚染」の内容に注意すべき内容があったので、詳しく見直してみることにした。

内容の情報源は、国立環境研究所の大原さんのシミュレーションが主で、そのあと、ヘリコプターなどを使った実測を行っていた。(実測値は、シミュレーションでもっとも汚染がひどいと予言された栃木県那須塩原市で採取された。)

今回のレポートではセシウム137および134に注目している。それぞれ半減期は約30年および2年である。両者共に、常温で細かい粒子状(粉末状態?)の形態をとり、風に乗って環境に飛散していくと考えられている。したがって、乾いた空気中の放射性セシウムの濃度が、ある程度高くなったとしても、そのまま飛び去ってしまうため、(乾いた)汚染空気が通り過ぎた場所だったとしても、土壌汚染はあまりひどくならないらしい。セシウムが土壌汚染を引き起こす条件は、濃度が高い汚染空気(雲のこと)から雨が降る事だという。雨粒と一緒に(砂を含んだ水滴のようなイメージ?)大地に降り注ぐとき、汚染がもっともひどくなるらしい。

まずはこのシミュレーションの詳細から見て行くことにしよう。使われた気象モデルはWRF v3.1というもの。アメリカの地球物理関係の研究所および米軍が中心となって開発しているシミュレーションで、Intel Fortran compilerがあれば動かすことができる。

次に、化学物質の拡散(伝搬)シミュレーションとしては、CMAQ v4.6が使用されている。これもアメリカの環境科学の研究者によって開発されたもので、主に大気汚染のシミュレーションに使用されている。放射性物質のためのシミュレーションではないので、崩壊による核種の変化や、量の増減については再現性が劣る。(ちなみに、日本政府が開発したSPEEDIは放射性物質に特化された拡散シミュレーションだったが、コードの公開も、計算結果もほとんど公開されず、役立たずの烙印を押されている。)

さて、この2つのコードを組み合わせて行われた国立環境研究所のシミュレーションだが、その計算グリッド数は117x117x34で、水平分解能は6km。計算領域は北海道渡島半島南部から大阪までである。標高に関するデータは若干いい加減なところもあるが、グリッド分解能の精度の数倍程度は信用していいだろう。感覚的なところで、10−20km程度の誤差はあろうが、大雑把なところでは合っているだろう、という感じか?(計算を実行した本人が作ったプレゼン資料はこちらこちらで見る事ができる。)

さて、このシミュレーションをきれいにまとめたNHKのプレゼンを見てみる事にしよう。
まずは、3月15日から。この日の早朝、まず2号機でベントが試みられた。(このベントは失敗したと、東電は思っているらしい。)そして、午前中には、2号機、3号機、4号機で火災などが発生。この際、格納容器(4号機は使用済みプール)が破損し、放射性物質が環境に漏れだしたと考えられている。

最初の図はこの日の朝9時の状況をシミュレートしたもの。

茨城県、埼玉県、東京都に、放射性セシウムの濃い雲(プルーム=煙)がかかっている。千葉や神奈川にもプルームは流れている。しかし、このときは降雨がなかったので、ひどい土壌汚染は生じなかったらしい。(プルームが来ていると知ってしまっただけで、あまり気持ちいい感じはしないが....)

次いで、午後4時に相当する計算結果を見てみよう。

プルームは、東京、神奈川、山梨の県境あたり、つまり奥多摩や丹沢といった関東山地の一部にかかっている。また、秩父山地や妙義荒船山系を含む、埼玉、群馬、長野の一部にプルームが来ている。主に関越道、上信越動に沿った地域に放射性物質がやって来ている。茨城、栃木の南部、埼玉全域、群馬南部の上空はひどく汚染され、長野県の佐久上田長野地域まで染みこみ始めている.

この段階で、北の方から雨が降り出したらしい。しかし、雨はまだ新潟のあたりにあり、関東や信州では降っていなかった。

最後に、午後9時に相当するシミュレーション結果を見てみよう.

栃木県の平野部、群馬のほぼ全域、そして長野県の東信地域(主に軽井沢や佐久など、群馬との県境地域)に濃い目のプルームがかかっている。そしてこのとき、雨が降ったらしい。

そのときの降水の様子を次ぎの図に示す。
群馬県の西部、栃木県の北部、山形県の南部、新潟県の東部、そして長野県の東信地域で雨が降っており、またその地域のプルーム濃度が高めになっている。特にまずいのが、栃木県の北部の那須塩原のあたり、そして、群馬県の西部(前橋、高崎の付近一帯)、そして群馬長野の県境、および群馬新潟の県境だろう。

NHKでは、とくに那須塩原に着目することにした。それは、この後の降雨の様子、およびシミュレーション結果を調べると、プルーム濃度がもっとも高い地域のうち、もっとも激しい雨が降ったのが、那須塩原と考えられたからだ。(次の図参照。)

この図をみると、那須から南西方向に、降雨と汚染が重なっているのがわかる。さらに、群馬全域、会津若松地域、十日町の周辺、そして栃木の北部も汚染が大きい可能性がある。

そして、NHKは、このシミュレーションが正しいかどうかチェックするために、那須塩原地域にヘリを飛ばして、実測してみるのであった。その結果は続きにて。

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