2011年1月30日日曜日

「宇宙論入門」を読む

佐藤勝彦著、「宇宙論入門 —誕生から未来へ」(岩波新書、2008年11月)

多忙で激務の東大の先生が「書いた」本。あとがきによると、口述筆記に加筆したものらしい。「サトカツ」さんが本気を出したら、もっといい本が書けるはずとは思うが、忙しくてそんな時間は無いはず。だから「この程度かな」と納得はできないことはないが、ちょっと不満に感じるのも確か。

現役の研究者による「入門」は、最新の知識の紹介という点からすると、貴重な書物だ。しかし、それは同時に、万人向けの新書の形態にはそぐわない、ということも意味すると思う。背景やら基本知識を、面倒くさい方法で「一般的に」記述する必要が生じるからで、肝心のテーマまでなかなかたどり着けない。

この本は、そんな「回り道」をしている最中に、基本的な事柄に関する記述が不明瞭になってしまって、本筋に至るまでに、読者に「なにそれ?」とか、「本当に?」など、疑心を植え付けてしまっている可能性がある。例えば、真空の相転移の説明で、超伝導をひきあいに出しているが、実は前者は一次であり、後者は二次であるから、かなりその現象に違いがある。また、超伝導の基本理論はBCS理論であり、ギンツブルグーランダウ理論はどちらかというと現象論に片寄ると現代物理では思われているのだが、本書では後者の理論しか紹介していない。むろん、こういう細事は最新の研究には直接は関係してこないから、多少粗い記述であっても結論は揺らがない。しかし、せっかく啓蒙書をかいているのだから、基本概念については、初学者や素人の目を開かせてくれるような「ああ、そういうことなんだ」とか「その意味初めて分かった」といった含蓄ある記述を期待したいものだ。そういう意味では、急いで要点をまとめた「現役研究者らしい」本になっていて、岩波新書には合わない感じがした。サトカツさんが引退してから書く本に期待したい。

役に立った情報は本書の後半に多い。特にWMAPの成果についての紹介は面白かった。例えば、

  1. WMAPはラグランジュポイントのL2に位置すること。これは月軌道の向こう側だということ。
  2. WMAPによって宇宙論のパラメータのうち3つが決まったこと。(ハッブル定数、暗黒物質とバリオン密度を合わせた「物質」密度、そすて暗黒エネルギー密度。)これをルメートル模型に代入すると宇宙の年齢が137億年と決まること。
  3. 宇宙背景輻射が完全には等方ではないことから、インフレーション理論が正しそうだということが示されたこと。
「宇宙論」といっても、結局は「膨張宇宙モデル」につきる。その中に、ビッグバンがあったり、加速的膨張があったり、宇宙項(暗黒エネルギー)があったりするから、ある意味すごく単純な分野だといえる。ただ、宇宙論の面白い点は、物理学の様々な結果を寄せ集め、総合的に適用して、理解しようとする点。プラモデルの組み立て+改造にちょと近い感じの楽しさを感じる。

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